【ワシントン=川合智之】パリ同時テロの影響でシリア難民の受け入れを拒否する動きが米国で広がってきた。米メディアによると下院は週内にもオバマ米政権の難民の受け入れ計画を停止する法案を採決する構えだ。オバマ氏は18日のフィリピンのアキノ大統領との会談後に「テロ攻撃に対し恐怖やパニックに陥るのはよくない」と共和の動きを批判した。
ライアン下院議長(共和党)は17日「シリア難民にテロリストが紛れ込まないか確認する必要がある」と指摘したうえで、オバマ政権が計画する難民受け入れを「停止するのが賢明だ」と述べた。
オバマ氏が掲げた年1万人の難民受け入れ計画に対し、共和に所属する州知事や大統領選候補者らは安全確認が不十分だとして、一斉に難民受け入れを拒否する意向を打ち出した。50州のうち半数を超える31州の知事が難民の受け入れ反対を表明し、受け入れを支持しているのは7州にとどまる。米ホワイトハウスは17日、34知事と政府高官の緊急電話会議を開き、難民受け入れについて説明した。
米政府高官は17日「シリア難民には追加の安全審査が課される」「承認率は50%を少し超える程度だ」とし、難民とともに多数のテロリストが入国するとの懸念に反論した。難民受け入れの権限は連邦政府にあるが、実際には「地域社会の支援に依存している」とも指摘し、州政府やボランティアの役割が重要だと呼びかけた。
キリスト教保守派を支持基盤とする大統領選候補、共和のテッド・クルーズ上院議員(44)は、イスラム教徒の難民受け入れは「狂気の沙汰だ」と述べ、キリスト教徒に限るよう訴えた。オバマ氏はクルーズ氏の父がキューバで迫害を受け米国に逃れた移民であることを念頭に「家族が迫害から保護された政治家もいるのに、恥ずべきことだ」と非難した。
移民社会である米国で難民拒否の動きが出ていることには反発も広がっている。ヒラリー・クリントン前国務長官(68)は「最低だ」とツイッターに投稿した。ソーシャルメディアでは、米アップル創業者の故スティーブ・ジョブズ氏がシリア移民2世であることなどを指摘する声もある。