農業と福祉を両立させる「農福一体」を目指し、埼玉県熊谷市の農業生産法人「埼玉福興」が障害者雇用に取り組んでいる。畑仕事に汗を流すのは、知的障害や発達障害などさまざまなハンディのある32人。野菜に加え、この地域では珍しいオリーブも無農薬で自然栽培しており、有名レストラン出身のパティシエも注目している。
熊谷市を流れる利根川のほとりに広がる畑。同法人の寮で暮らす10~70代の障害者たちが通い、サラダホウレンソウやハクサイなどを育てて出荷している。
「農業では力仕事や単純な手仕事など、それぞれの障害に合った作業ができる」と社長の新井利昌さん(41)。以前は縫製業など機械を使う仕事を障害者に提供していたが、農業を始めてからは自然との触れ合いがストレスを減らすのか、従業員同士のトラブルもなくなったという。担い手不足の農業で障害者が活躍し、収益が上がれば賃金で還元する。そんな自立支援の形が理想だ。
畑の一角には約10年前に香川県の小豆島から譲り受けたオリーブが約300本立ち並ぶ。近くの作業小屋では、発達障害のある男性(32)らが、オリーブ茶にするための葉を枝から摘み取る仕事をしていた。年齢も障害の程度もさまざまな十数人がテーブルを囲む。男性は「いい仲間がいて楽しい」と笑った。
オリーブ茶の開発に協力したのが、栃木県足利市のパティシエの武井一仁さん(51)。熊谷産オリーブ茶は苦味が少ないのが特徴で、料理や焼き菓子の材料にも使用している。武井さんは「果実ばかりに目が向くオリーブで、本来は捨てられる葉が雇用を生んでいるのは意義深い」と話す。
新井さんは今春、群馬県高崎市でも寮や畑をつくる予定だといい、「事業を広げて工場を造り、新たな雇用の場を創出する。そうすることで、さまざまな人の受け皿になれる」と語った。〔共同〕