朝になり避難所から、住宅が倒壊した道路を歩いて自宅に戻る女性ら。「ドンッと突き上げられ、横にも揺さぶられ、怖くて動けなかった」=15日午前6時33分、熊本県益城町、長島一浩撮影
地震から一夜明けた15日朝、震源に近い熊本県益城町に入った。家屋の倒壊や火災が起きた地域は生々しい傷痕をさらしていた。
熊本で震度7 これまでの経過を時系列で
特集:熊本地震
熊本市から車を走らせた。歩道の所々に倒れた塀や落ちた瓦の破片、マンホール部分を残して地盤が下がった路面……。県道が益城町に差しかかると沿道の様子が変わり始めた。
町中心部の惣領(そうりょう)地区に入ると、目に入る被害の度合いは増した。屋根がつぶれて、軒が地面すれすれまで落ちてしまった家屋も現れた。神社の境内には、灯籠(とうろう)や門柱が散乱していた。消防や警察などの緊急車両のサイレンが絶えず響く。県道は随所でがれきが散乱するなどしており、徐行や片側通行を余儀なくされ、渋滞していた。
町役場に近い安永地区の住宅街に入った。多数の家屋の倒壊や火災が確認されている地区だ。せまい路地を進むと、ブロックを路上に並べたかのように塀が倒れた家がいくつも現れた。
瓦の破片を掃き集めていた主婦渡辺典子さん(67)は、娘夫婦と孫の家族5人で、車2台の中で一夜を明かした。「家の中にいると怖い。揺れるとミシミシと音がするんです」。家財道具も倒れ、電気もつかないという。路上で話を聞くわずかな間にも余震があり、足元の地面が揺らぐ。関東にいるきょうだいから携帯電話に連絡があり「何か必要なものはないか」と尋ねられたが、考えの整理がつかない。施設に入所中で連絡が取れていない母親のことが心配だという。
別の路地では、路面を横切るように約10メートルおきにアスファルトに亀裂が入っていた。全壊した家々。近所では、家がつぶれて亡くなった住民もいる。焦げたような臭いがする方へ向かうと、地震後の火災で焼け落ちた家の跡だった。
塀やがれきが道をふさぎ先に進めなくなり、別の路地に入ると、玄関先に寄り添うように座る家族がいた。2階建ての木造家屋は辛うじてそこに立つが、1階と2階の壁が異なる方向に傾き、瓦が落ちている。外れた窓から見える家の中は家財道具が散乱していた。「もう住めない。解体するしかないでしょう」。この家に住む団体職員大矢野淳(あつし)さん(53)がつぶやいた。
前夜は大きな揺れの後、停電で真っ暗になった。「一瞬でした」。家族の名前を呼んで無事を確認し、はい出るように玄関近くの窓から外へ出た。近くの駐車場で近所の人らが持ち寄った毛布に身を包んだ。「まさか被災者になるとは……全く現実感がわきません。これからどうすればいいのか」(田中久稔)