余震が心配で、熊本市内の自宅を離れて家族と車内で寝泊まりしているという北嶋博文さん=19日午後7時26分、加藤諒撮影
19日午前2時半、熊本県益城(ましき)町の大型展示場「グランメッセ熊本」。2200台分の駐車場を埋めた車の陰で、小刻みに足踏みしながら行ったり来たりする人がいた。
エコノミー症候群防ぐには
特集:熊本地震 ライフライン情報など
熊本地震 災害時の生活情報
記者が話しかけると、男性(65)は言った。「血の巡りをよくしないと、足に血栓ができるんだよね」
熊本市東区の自宅で被災した。戻るのが怖く、車中泊3日目。車内では2時間で目が覚める。そのたびに携帯ラジオを聞いたり、走ったりを繰り返し夜明けを待つ。
この展示場は、町を震度7が襲った14日以降、臨時の避難所になった。だが、16日未明の本震で建物内には入れなくなり、駐車場で約3千人が夜を過ごしている。
午前3時20分、益城町の村上聖一さん(62)はトイレに起き、妻(65)と体のストレッチをしていた。「車内で寝ていると足が痛くて痛くて。つま先の感覚がない。このままの生活が続くと、心身ともに耐えられない」
益城町の会社員、高本健太さん(31)も、車中泊3日目。小型の乗用車に妻(31)と長女(3)が一緒だ。14日夜は指定避難所に行ったが、寝る所は廊下だけだった。人が横を通るたびに目を覚ました。少しはプライベートな空間が保てると思い車中泊を選んだ。「駐車場を照らす外灯の白い光がまぶしくて眠れない」。高本さんはそう言い、窓ガラスに新聞紙を挟みこんだ。
この日も緊急地震速報が鳴り響いた。妻(26)、長男(1)と一緒の北村将博さん(27)はワゴン車内で身を固くした。
北村さんは車の後部座席を倒して寝転ぶ。足は伸ばせるが、1時間おきに目が覚める。迷惑にならないようエンジンは止め、掛け布団に3人でくるまる。未明の最低気温は6・2度。長男が風邪を引かないか心配だ。「ここはみんなが集まり、安心感がある。ただ十分に眠れる環境だけでも早く取り戻したい」
午前5時半、夜が明け始めた。少しずつ、車の外に出る人の姿があった。毛布をたたんだり、服を着替えたり。閉鎖された施設前でおにぎりの支給が始まったのは午前6時半ごろ。数百個は1時間ほどでなくなった。全員には行き渡らない。それでも避難してきた人たちは、「車中泊」をする理由について「屋内にいると余震が怖い」と口をそろえる。
午前9時すぎ、車はピーク時の3割程度に減った。多くが自宅の片付けに向かった。(飯島健太、松川希実)