復興住宅のこたつにもぐってラップのレコーディングに臨む藤沢匠子さん(右)と門脇篤さん=仙台市太白区、門脇さん提供
仙台市の災害公営住宅(復興住宅)の一室で、こたつにもぐるおばあちゃん。大きなヘッドホン、手にはマイク、口ずさむのは「ラップ」だ。戦争、家族の苦労、東日本大震災――。7月で88歳になる藤沢匠子(たつこ)さんが、喜怒哀楽をファンキーに歌った「俺の人生」で5月、CDデビューする。
青春時代は戦争だった 月謝払って弾丸つくった
戦闘機からは機銃掃射 命がけのdodge balls
仙台空襲じゃ焼け残ったけれど この世の地獄絵目に焼き付いた
あれ考えればなんでもない どんなことだって乗り越えていける
藤沢さんは昭和3年仙台生まれ。女学校時代は学徒動員で働かされた。戦争が終わったと思ったら、広瀬川の氾濫(はんらん)で家を流された。結婚5年で夫は死に、共に板金屋を興した息子は病に倒れた。そして5年前の3月11日、内陸部にあった家が地震で壊れた。
CDをプロデュースしたのは、門脇篤さん(47)。震災後、仙台の子どもたちと一緒にラップをつくる活動を続けてきた現代芸術家だ。仮設住宅や復興住宅をたびたび訪れてきた。
今年1月、茶飲み友達の藤沢さんから「アタシの人生はすごいのよ」と、3日間かけて滔々(とうとう)と語られた。「でも本にしようかなって言ったら、誰も読まないってさ」。それならラップにと提案すると、「サランラップなら知ってっけど」。