ブレイディみかこさん
ロンドンで2月と3月に起きた殺人件数が、現代史上初めてニューヨークを上回ったことが4月に明らかになった。ロイヤルファミリーとアフタヌーンティーの国の首都が、ニューヨークより治安の悪い都市になったというニュースは、英国のみならず、世界中を驚かせた。
1965年生まれ。保育士・ライター。96年から英国在住。近共著に「そろそろ左派は〈経済〉を語ろう」、著書に「子どもたちの階級闘争」など。
ロンドン警視庁の発表によれば昨年4月から今年3月までのロンドンの殺人件数は前年比44%増、若者の犯罪件数が約3割増だ。銃の発砲事件は23%、ナイフ犯罪は21%上昇した。週末になるとロンドンで10代の少年や20代の若者が刺殺・射殺されたという報道が流れ、「ユースクライム(若者犯罪)」という言葉がクローズアップされている。ふと思い出すのは、2011年のロンドン暴動の後で息子の友人のお父さんが言っていた言葉だ。長年ロンドンの貧困区で若者支援に関わるユースワーカーとして働いた彼はこう言った。
「政治が若者支援の予算を削減し続けたら、ロンドンはかつてないほど危険な都市になるだろう」
地方自治体の福祉予算削減で職を失い、ブライトンに引っ越してきた彼は、暴動はそのほんの始まりに過ぎないと予言した。11年から17年までの間にロンドンでは88のユースセンターが閉鎖されている。彼もそうしたセンターの一つで働いていた。
ユースセンターは、地域の10代の青少年たちが集まって放課後や余暇を過ごせる場所である。そこで働くユースワーカーたちは、ティーンの話し相手となり、問題を抱えた青少年を指導し、学校や福祉課、警察と連絡を取りながら支援していく仕事をする人々だ。こうした若者支援サービスの縮小が青少年犯罪の増加に結び付いているという声が福祉関係者から上がっている。ティーンの日常から、お金がなくても集まって遊べる場所や、親に言えないことを相談できる大人たちの存在が取り上げられているのだ。10年以降、公的な若者支援への支出は約3億8千万ポンド削減されており、12年から16年までに閉鎖された全国のユースクラブは603に上る。
それだけではない。11年には、低所得家庭の学生を対象とする教育維持補助金が廃止された。10年から14年の間に16歳から19歳の青少年への教育予算は実質で14%削減された。また、メンタルヘルスの問題を抱える若者たちが、人員とインフラの不足で機能不全のNHS(国民保健サービス)からしかるべきカウンセリングや治療を受けることが不可能になっているという指摘もある。
ロンドン暴動の発端の地トット…