朝日新聞デジタルのアンケート結果
子どもの成長に大きな役割を果たしてきた部活動は、曲がり角に来ているようです。朝日新聞デジタルのアンケートには2927人の声が集まりました。現状への不満が押し寄せています。中でも多かったのが、全体の4分の1を占めた教員の声です。その声を紹介するとともに、スポーツ系部活動の歩みに詳しい専門家に聞きました。
アンケート「やりすぎ?足りない?部活動」
スポーツ系の部活動の変遷に詳しい中澤篤史・早稲田大准教授に話を聞きました。
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部活動の評価、期待や課題の感じ方が、生徒、保護者、教師、その他の人々で同じではないことがアンケート結果に示されています。とはいえ、全体的に「不満」が多く、自由記述でも「悪い面」がたくさん指摘されています。問題を強く感じる人が、積極的に答えたのでしょう。
部活動は教育課程外の活動なのに日本中の中学、高校にあり、大勢の生徒が参加し、多くの教師も顧問としてかかわっています。ただ、好きで参加している生徒ばかりではなく、顧問をやめたい教師もいます。やらなければいけないものではないのに、成立しています。
その歴史は戦前にさかのぼります。教師が教育の一環としてかかわるようになったのは戦後からです。自分たちがしたいことを追求したり、仲間と協力したりすることで子どもは成長するんじゃないか。そんな自主性を重視する戦後教育の考え方に、部活動はピッタリはまったのです。
1970~80年代に、部活動の意味は大きく変わりました。学校の荒れが問題になり、管理や非行防止の手段として利用されました。生徒のしたいことを教師が支えるのではなく、部活動を通して生徒を管理する実践が広まったのです。部活動は生徒指導の手段として学校に不可欠なシステムになりました。「生徒はみんな入るべきで、教師もみんな従事すべきだ」。部活動は強制的で抑圧的になっていきました。
現在の部活動は、待ったなしの課題に直面しています。最優先に考えるべきは事故や暴力などから子どもの生命を守ることです。そして、教師の生活を守ることです。そんな深刻な状況を踏まえると、現状はやり過ぎのように映ります。そもそも、自主性が大事だといいながら、本当のところ全く自主的ではないことも多い。
部活動に教科書はありません。学習指導要領上もあいまいな位置づけです。自主性を重視するならマニュアルは作れず、あいまいにならざるを得ません。決められたことをこなすだけでは自主性は育ちません。やりたいことを追求し、力がつくよう工夫することが、人生を豊かにする可能性を生むはずです。
これからの部活動はどうあるべきか。少し肩の力を抜いて、部活動を「楽しむ練習」と考えたらどうでしょう。出発点には、生徒自身のしたい気持ちがあります。でも生徒は未熟で力不足でトラブルも起こすので、実は楽しむことは簡単ではない。そこで教師に支えてもらう。
野球をしたければメンバーを集め活動内容を考え、対戦相手を探さなければなりません。そのプロセスに教師が伴走する。見つけた対戦相手は倒すべき敵ではなく、ともに野球を楽しむ仲間になるはずです。
人生を素晴らしく、有意義にしてくれる「楽しむ力」を、部活は与えてくれるでしょう。(聞き手・片山健志)
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なかざわ・あつし 79年、大阪府生まれ。東京大教育学部卒業。一橋大大学院准教授などを経て4月から現職。専攻は体育学、スポーツ社会学。中学でサッカー、高校で硬式テニスの部活動に取り組み、東大でも体育会サッカー部に所属した。
■教員からの意見
第1回のアンケートには、現場の悩み、提案が寄せられました。800人近い教員からです。
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●「『もっと部活動の時間を長くしてください』という熱心な生徒。『他の学校と差がついたら困ります』『コーチをつけてもらえませんか』という熱心な保護者。『子どもに家でぶらぶらされても困る』という、部活動を託児所ととらえている保護者。土日の部活はあくまで顧問による有償のボランティアであること、教員の多忙さ、ぜひ保護者に理解していただけたら、と願います」(富山県・30代女性)
●「毎週土日、練習か試合になるのが当たり前になっており、平日に授業準備や事務作業がクラブ指導で進まなかった分を土日にクラブ指導後にせざるを得なくなり、朝早く子どもが眠っている中出勤し、子どもが寝付いた後に帰宅するといった日も多くあります。教師である前に一人の親なのに我が子と接する時間を削って休みなく働き、もらえるクラブ手当も4時間以上で3000円、6時間以上は一日中試合になり13時間になろうが3700円しかもらえず、試合会場への交通費は別にもらえるわけでもありません。それでも日々不満ばかりぶつけられます」(大阪府・30代女性)
●「自分もさんざん部活という制度によって成長させてもらい、部活がきっかけで体育教師になった。部活は、普段からその生徒の日常を見ている教師だからこそできる生徒指導も含めた多面的な教育的指導に大きな意味を持つ。外部指導者は、技術指導という役割では大変有効だと思うが基本はやはり教師が部活をみる方がより生徒の心身の成長につながると感じている。しかし、夫婦ともに中学校教師で3歳になる娘がいる私には話は別になる。切実に、部活動をやらない選択肢がここ数年間だけでも欲しい」(栃木県・30代女性)
●「与えられた部活動顧問で未経験であっても、何とか勉強しながら指導しています。競技の勉強、練習、部員のノート点検、練習試合のお願い電話、部活通信の作成、地区の協会役員にも自動的になっており、授業に費やす時間より部活関連の時間が多いのが現状です。これでも熱心な顧問というわけではありません」(山形県・50代男性)
●「ブラックと言われているが、果たして本当にそうか。教科教育・学級経営・生徒指導の3大業務を円滑に進める土台作り・環境つくりにも、部活動は有効であると考える。やりすぎや体罰は、それは悪。しかし、部活動を通して、社会に通用する子どもを育てることは十分にできる。文句を言う教員、まずやってみれ。関わり方を工夫しろ」(福岡県・30代男性)
●「部活の時間が長すぎて、子どもの学習にとって弊害になっている。子どもを家庭から引き離し、家族とのコミュニケーションの時間が少なくなる原因になってしまっている」(長野県・20代男性)
●「(教員歴33年)昨今の部活動半強制化と教員の全員顧問化が当然のようになっている時代に憤りを感じる。同僚は柔道の指導などの経験が全くないのに、今年から無理やり顧問を押し付けられた。事故が起きたら責任は誰がとるのか? 校長に問うたが無言だった」(東京都・50代男性)
●「教員が経験のない専門以外の顧問になることもあり、その場合、親の方が知識が詳しく、かき乱したりして、子どもの対応以外の心配もある。さらに連絡網で親同士の仲間はずしとかあったり、親指導までやらなくてはならない始末。年上だと親も遠慮するが、年下だと、だから教員はと、軽く見られ話を聞いてくれないことも多い」(埼玉県・40代女性)
●「教員間の評価までも部活の運営の良しあしによっているようにすら感じます。原因は、部活の方が教科などよりも保護者の目につきやすいこと、また学校、特に中学校が体育会系的イデオロギーに支配されていること、加えて部活に力を入れる人間の方が声が大きく幅を利かせやすいことなどが挙げられると思います」(埼玉県・40代男性)
●「本来の職務ではなかなか味わうことのできない、実感しづらい、達成感や充実感をクラブ活動の中で『お手軽に』得てしまい、クラブ中毒になってしまう教員が後を絶ちません。達成感を得るため、つまり試合に勝つために部員(生徒)を統制し、思考停止させ、自分に従順な『兵隊』にしてしまっています。将来、『兵隊』が教員になれば、それが『兵隊』を再生産してしまいます。この時代に逆行する負のスパイラルを一刻も早く止めるべきです」(京都府・30代男性)
●「部活動は生徒にとって、有意義な面も多い。部活動を通して、チームの一員としての協調性や、チーム・個人の課題を発見し、一人ひとりが解決策を考え適切な人へ相談し、話し合い、課題を解決していく過程を経験して欲しい。これらの学びは今の時代を『生き抜く力』につながると思う。ただ、部活動を通して生徒に身につけて欲しい力は、顧問によって異なる。また、部活動をしたい理由も生徒によって異なる。したがって、教員は顧問をする・しない、生徒は部活動に入る・入らないということを選択する権利がまずは与えられるべきだと思う」(山口県・20代女性)
●「生徒も保護者も管理職も、教員による指導を求めてきます。職務と位置付けるのであれば残業手当などの対価を支払うべきですし、教員免許取得課程への盛り込み、教員研修などの制度を整えるべきです」(兵庫県・30代女性)
●「顧問の先生との関係が密接で閉鎖的なことも多く、生徒も自身のバランスの悪さに気づくきっかけがつかみにくいと思います。複数の大人が協力して指導に関われれば生徒の発育上も良いと思います」(東京都・30代男性)
■4分の3が「不満」
今回のアンケートには40代から多くの回答が集まりました。過去、多くの回答を集めたアンケートにみられた傾向です。ちょうど中学生の子どもがいる世代に重なります。回答者の立場では「中学生の親」に「教員」が迫る勢いだったのが目を引きました。
今の中学校の部活動に満足か不満かを尋ねたところ、「大いに」と「どちらかというと」を合わせて4分の3が「不満」だと回答しました。
これまでのアンケートには、若い人があまり参加していませんでした。今回は30代以下が3割超。「中学生」の回答も66ありました。
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