「『自分が選ぶ』という意識を持った方がいい」と語る大川豊総裁=竹谷俊之撮影 ■就活する君へ 特集:就活ニュース 明治大の在学中に153もの企業を受け、全社に落ちた大川興業の大川豊総裁(54)。最後は自ら芸能事務所を立ち上げ、「自分で自分に内定を出した」。そんな総裁が語る、反面教師的(?)シューカツ論。 ――落ちてしまった153社では、どんなことをやらかしてきたのですか。 「サントリーの履歴書に『3秒で友達になれる』と書いたんですね。男性の面接官に『どういうことですか?』と聞かれ、いきなり抱きつきました。そのうえ、うつむいて赤くなってしまった相手を『照れるな!』とひっぱたいた。もちろん、すぐに『すみません』と謝りましたけれど」 ――それは落とされても仕方ないですね。 「『やってみなはれ』(サントリー創業者・鳥井信治郎の言葉)の精神を実践してみたんですけどねえ……」 「山一証券では、1965年に経営危機に陥った時のことを、しつこく質問しました。面接官は『君はバカか。山一が潰れる時は日本が潰れる時だよ』と怒り出した。だから『わかりました。もし山一が潰れたら、その時初めて株をやります』とタンカを切ってやったんです」 「そうしたら、1997年に本当に経営破綻(はたん)してしまった。約束通り、山一の株を注文しました。証券会社に『10円以下になったら買う』と伝えた翌日、『山一が1円になりました』と電話が入った。思わず『買いだ!』と叫びましたよ。一度言ってみたかったんです。1株1円、千株で千円。で、手数料が2500円です。招待を受けて、最後の株主総会にも出席しました。内定はもらえませんでしたが、『ご縁』はありました」 ■「自分が選ぶ」意識を ――企業には耳の痛いことも、面接で直言したわけですね。 「ええ。ダイエーを受けた時は『流通業なのに土地で稼ぐのは、間違っているのでは』と指摘しました。山一・ダイエー・そごう……。『ジャパン・アズ・ナンバーワン』なんて言われましたが、当時受けた会社は軒並み潰れてしまいましたね」 「いまの就活生は『選んでもらう』という意識が強い。でも、就活はあくまでも通過点です。『自分が選ぶ』という意識を持った方がいい。俺の場合は最終的に大川興業株式会社をつくり、自分で自分に内定を出した。それでも生きていける、ということですよ」 ■江頭はむしろ普通 ――これまでは「採用される」側の話を伺いましたが、大川興業の総裁としては「採用する」立場でもあります。求める人材は? 「やる気さえあれば何でもできます。それと、あいさつは大事。あいさつっていうのは自分から心を開くこと、相手を喜ばせることですから」 ――江頭2:50さんを採用した時は、何が決め手になったのですか? 「大川興業は『来る者拒まず』なので。その時は『ニューヨークに行ってバレエをやりたい』っていう人や、『宇宙人を呼べる』っていう人、『肩を外せる』とかいう人まで来ていて、江頭はむしろ普通に見えました。ちゃんと社会生活を送れそうだぞ、と」 ――非常にエキセントリックな印象がありますが、江頭さんってあいさつとかするんですか。 「あいさつはできますね。裸芸をやってフラフラになった後でも、それだけは欠かしません。ライブでお尻から白い粉を噴き出す芸をやっていた江頭も、いまじゃウチの稼ぎ頭。地上波には出るは、LINEのスタンプになるは……。まさか、こんなに売れるとは思いませんでした」 「大川興業には、阿曽山という裁判傍聴芸人もいます。ホームレスをしていた時期もあって、その頃は「新宿駅徒歩0秒」と言ってました。高倍率のホリエモン裁判の傍聴券を一人で並んで当ててしまったり、パチスロの腕がプロ級だったりと、なかなかすごいヤツです。どんな時でも『ハイ、やります』という感じで、最初の一歩が早い。そういうフットワークの軽さは大事だと思いますね」 ■「遅刻した」と書き込む心理 ――就活生と話す機会も多いとか。 「反面教師として、就活のイベントに呼んでもらうこともあれば、個別に相談を受けることもあります。いまの就活生はマニュアル世代だからか、業界ごとにコピペの想定問答みたいなものがあって、みんなそれを覚えている。恐ろしいですよ。自分が何をしたいのかわからない、という学生も多いです」 「なかには、『就活うつ』になってしまう子もいます。これまでペーパーテストで勝ってきたのに、面接で落とされて人間性を否定されたように感じるのでしょう。ですから、企業の人事担当者には『落とす時でも、必ずひとつはほめてあげてほしい。それが部下を育てる能力にもつながるから』と言ってます。人事は人事で、うかつな人材はとれない、という事情もあるのだとは思いますが」 ――精神的に追い込まれてしまう就活生は多いですか。 「心が折れそうな人は増えていますね。ツイッターやフェイスブックに、わざわざ『試験に遅刻した』とウソの書き込みをする子もいるそうです。そうしておけば、落ちてしまった時に『遅刻したから』と言い訳できる。合格したら『遅刻したのにラッキー』でいい。頭はいいけど、何だか狭いですよね」 ■借金の総額は… ――就活生へのアドバイスは。 「もっと就活を楽しんだ方がいいんじゃないかな。企業の内部の人と会えるチャンスなんて、そうそうないですよ。ある総合商社を受けた時は、面接で気に入られてそのまま飲み会に連れて行ってもらった。信託銀行では、『カジュアルな服装で』と言われてジャージーを着て行ったら、面白がってくれた。2社とも、役員面接まで進むことができました」 「最後はどっちも落ちましたけど、就活って企業のキャラクターがすごく出ますよね。まあ、昔は選ぶ側にも余裕があったということなのかもしれませんが」 「企業から不採用を告げる『お祈りメール』をもらっても、『もし良かったら、もう一度チャンスをください』って手紙を書いてみたらいい。もしかしたら引っかかるかもしれないし、それで採用してくれる会社はきっと相性がいいですよ」 ――総裁と言えば借金で有名ですが、いまの残額はいかほど? 「7千万円ぐらいあるんじゃないですかね。自主制作で『暗闇演劇』というものを毎年やっていて、音響やら照明やら大道具やら、とにかくお金がかかるんです」 「普通にテレビの仕事だけならもっと稼げるかもしれないけど、それじゃ人生楽しくないでしょ。銀行をもうけさせて、日本を元気にしているのは我々です。芸人ですから、自分のところに来てくれたお金には、気持ち良く出ていってもらいたい。マイナス金利で利息をもらえる時代が、いつか来るんじゃないかと願ってますよ」 ◇ おおかわ・ゆたか 1962年、東京生まれ。83年、明治大学在学中に学ラン集団の大川興業を結成。85年、大川興業株式会社を設立し、代表取締役に就任。著書に『お笑いテロリスト大川総裁がゆく!』『金なら返せん!』シリーズなど。(神庭亮介) |
153社落ちて、自分に内定出した 大川豊総裁の就活論
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