わいせつか芸術か――。繰り返されてきた論争に新たな1ページが加わった。問われたのは、女性器をかたどった立体作品と3Dスキャナーで作成した女性器の3Dデータ。最新技術も採り入れた作品の「境界線」は。
「きょうも傍聴席にいます」一覧
2015年4月15日、東京地裁425号法廷。傍聴人は荷物を預け、金属探知機で検査を受ける厳重な警備のもとで、初公判が開かれた。
「女性器を元にした私のアート作品は、わいせつではありませんので、私は無罪です」
認否を問われると、漫画家の五十嵐恵=ペンネーム・ろくでなし子=被告(44)はこう述べた。
「女性器は自分の大事な体の一部分に過ぎないものであるのに、日本では恥ずかしい、いやらしいものとして扱われてきた。そのイメージを払拭(ふっしょく)したくて、女性器をモチーフに、ユーモアあふれるたのしい作品を作りました」
被告は11年ごろ、自身の女性器をかたどった石膏(せっこう)に様々な着色や装飾を施した作品をつくり始め、この過程を漫画化。参加者に制作方法を教えるワークショップを開催し、後には個展も開いた。13年ごろには、自らの女性器を3Dスキャナーでデータ化し、これを使って実際に乗れるボートを制作した。
被告は14年7月、3Dデータを配布したことが、わいせつ電磁的記録等送信頒布にあたるとして逮捕。すぐに釈放されたが、同年12月、東京都内のアダルトショップで石膏作品を展示したとして、わいせつ物陳列容疑で再び逮捕された。
創作物とわいせつをめぐっては、表現の自由との関係でたびたび議論を呼んだ。今回も逮捕後、芸術評論家らが「表現の自由への弾圧」と抗議声明を出し、シンポジウムも開かれた。
今回問題とされた「作品」の1つは、縦約15センチ、横約7センチ。「表面全体が濃い茶色。女性器部分の外縁には、クリーム、ビスケット、いちご、真珠のようなものが多数配置され、洋菓子のような印象を与える」(判決)という。
最高裁は判例で「芸術・思想性がわいせつ性を緩和する場合がある」としている。被告の作品は芸術なのか。