仏壇型のウォッチワインダーケースと井上昌一社長。立方体のワインダーが16個収まる=彦根市芹中町の井上仏壇
彦根仏壇の「井上」(滋賀県彦根市芹中町)が、自動巻き腕時計の巻き上げ機(ウォッチワインダー)を収める仏壇型の大型ケースを開発した。350年の伝統を持つ仏壇製造の工程「七職」の技術をすべて詰め込んだ。受注生産で価格は2500万円(税抜き)を予定し、国内外の富裕層への売り込みを目指す。
彦根仏壇の起源は江戸中期に城下町で武具、武器の製作にたずさわっていた職人が転向したのが始まりとされ、現在も「七曲がり」と呼ばれる芹川左岸の地域を中心に約20社が店を構える。工程は木地、宮殿、彫刻、漆塗り、金箔(きんぱく)押し、錺(かざり)金具、蒔絵(まきえ)の七つに分かれ、「七職の匠(たくみ)」と呼ばれる伝統工芸士約30人が、湖東一帯で製作に従事している。
「井上」は1901年創業。仏壇製造の技術を応用した新商品の開発にも積極的に取り組んできた。一昨年からはスイス製のワインダーを収める漆塗りのケースを「INOUE」のブランドで開発。腕時計1個入り(220万円)、3個入り(404万円)、10個入り(565万円)に続き、仏壇型の大型ケースに着手した。
新しいケースは高さ180センチ、幅66センチ、奥行き40センチ。外観は彦根仏壇の特徴である木目をいかし、赤みを帯びた総漆塗り。扉の裏には春の桜と秋の紅葉を金蒔絵であしらう。内側の扉を開くと、金箔を押した屋根や鳳凰(ほうおう)の欄間など仏壇そのままの飾りがあり、ワインダー16個を収納できる。
国の伝統的工芸品産業支援補助金を活用した試作品で、製作に1年半かかった。時計とワインダー(1個8万円)が別に必要になる。
井上昌一社長は「仏壇の技術を駆使して新しいものを作ってみたかった。日本人が見れば仏壇でも、海外のお客さまは宗教性を感じないのではないか」と話す。(大野宏)