法相の諮問機関「法制審議会」の性犯罪部会が16日、性犯罪の厳罰化に向けて刑法を改正する答申案をまとめた。法務省は今後、答申を受けて国会に提出する法改正案づくりを進める。100年以上続いてきた規定を見直すことには、評価の声がある一方、「厳罰化だけでは抑止力にならない」との指摘もある。
答申案には、強姦(ごうかん)罪や強制わいせつ罪について、被害者の告訴がなくても罪に問える「非親告罪化」が盛り込まれた。これまでは、処罰するかの判断が被害者に委ねられてきたが、その精神的な負担は軽くなる。一方、「被害者の意向にかかわらず立件される恐れがある」という懸念もある。
法制審に先立って開かれた有識者会議で意見を述べた性犯罪被害者の小林美佳さん(40)は「事件後、加害者や裁判とは一切関わりたくないと思う人もいる。自分もそうだった。本人が望まなければ、立件しない運用を強く求めたい」と話す。部会では、検察官の委員が「被害者には処罰の必要性を十分説明する。望んでいなければ、勝手に起訴しない」と説明した。
「強姦」の考え方も大きく変わる。「男性が加害者、女性が被害者」という性別の前提がなくなるほか、性交に類似する行為も、強姦罪として扱う。法改正時には「強姦罪」の呼称が変わる可能性が高い。
また、18歳未満の子どもに対し、親などの生活を支える「監護者」が「影響力に乗じて」わいせつ行為や性交をすることを罰する罪も新設される。被害者が抵抗をしたかどうかに関係なく処罰でき、親による性的虐待などが対象になる。
被害者の間には、監護者以外による強姦や強制わいせつ罪についても、「暴行や脅迫」という成立条件をなくし、抵抗の有無にかかわらず処罰できるように改めるべきだ、という声もある。しかし、有識者会議の時点で、「現行でも暴行や脅迫の程度は幅広く解釈されている」として、部会では議論の対象にならなかった。
1万人を超す被害者から相談を受けてきた小林さんは「被害者が拒まなかったとして、罪に問えない例に多く出会ってきた。今回で性犯罪に対する議論を終わりにせず、今後も検討を続けてほしい」と話す。