英国民投票翌日の24日、英スコットランドを訪れ、自身の名を冠したリゾート施設で演説するトランプ氏=AP
英国の欧州連合(EU)離脱決定が、大統領選挙を控える米国でも波紋を広げている。反移民の動きや経済格差、政治不信など、両国の政治・社会的背景が重なるうえ、共和党のトランプ氏と英国の離脱派の主張も似通っている。トランプ氏は「米国民も独立を宣言する」と追い風にしようとするが、逆風になる可能性もある。
特集:米大統領選2016
「英国民はEUからの独立を宣言した。11月、米国民も再び独立を宣言し、世界のエリートによる支配を拒否する機会を得るだろう」。大統領選で共和党の指名獲得を確実にしたトランプ氏は、英国のEU離脱を受けた24日、離脱を歓迎する声明を出した。
自分たちの職を奪っていると移民流入に反発し、自由貿易とグローバル化に反対する。失われた「大国」のプライドと「主権」を取り戻すべきだと訴え、問題解決の糸口を見いだせない既成政治を否定する――。トランプ氏や支持者の主張の多くは、大西洋を隔てた英国の離脱派の声と重なりあう。
トランプ氏は「不法移民の強制送還」や、移民流入阻止のためにメキシコとの国境に「万里の長城」を築くと公約。労働者保護を名目に環太平洋経済連携協定(TPP)に反対、「米国を再び偉大な国にする」を選挙スローガンに掲げる。
ブレア元英首相はCNNのインタビューで、英国のEU離脱と「トランプ現象」を「(庶民の)反乱が米英両国で類似している」と指摘。米外交問題評議会(CFR)のリチャード・ハース会長も、米英両国民の不満は「単に経済の問題だけでなく、移民問題を含む社会問題とリンクしており、クリントン陣営はこうした不満を過小評価すべきでない」と警鐘を鳴らす。
米誌「アトランティック」は、英国の離脱支持層とトランプ氏支持層に多い人の特徴として、①年齢が高い②大学教育を受けていない③エリートへの不信感④外国人嫌い⑤懐古主義的などの点で重なると指摘する記事を掲載。メディアなどが英国の離脱派勝利とトランプ氏の予備選勝利を予測する世論調査を軽視していたことなど、「非常に共通点が多い」と分析する一方、特定の政策を問う国民投票と、指導者を選ぶ大統領選とは異なると指摘する。
民主党のクリントン氏は「こうした不確かな時代だからこそ、ホワイトハウスには冷静で安定し、経験のある指導力が必要だ」と強調。英国のEU離脱が、トランプ氏に追い風となるのか、それとも危機感からブレーキの役目を果たすのか。先行きは見通せない。