平和への思いを詠んだ短歌コンクール「八月の歌」（朝日新聞社主催、岐阜県高山市共催、高山市教育委員会後援）の優秀賞１０首と奨励賞が決まった。今年で８回目。一般の部に７９６首、中学・高校の部に１４２６首の合わせて２２２２首の応募があった。フランスで平和活動に取り組む歌人、美帆シボさんが選考した。表彰式は８月６日に高山市で開かれる。

優秀賞は次の通り。（敬称略、５０音順）

【一般の部】

核のボタンそばにはべらせ鶴を折るオバマ氏想へば哀しきうつつ

（長野県箕輪町）井上孝行

沖縄の空に散りたる兄の遺影二十歳の瞳が現世（いま）を見つめる

（岐阜県高山市）桐山吾朗

引揚げの母の胸にて餓死したる兄の無念持てデモ列に入る

（埼玉県鳩山町）高野亨

震災後シャベル握りし隊員に異国で銃を撃たせてならぬ

（熊本市）田川清

サッカーで名を馳せた君戦（いくさ）でも名を馳せるのかシリア悲しき

（横浜市）水谷亮介

【中学・高校の部】

戦争で燃えた山には人間と同じ重さの命があった

（岐阜県・高山市立国府中１年）石原花菜

いつとなく終戦記念日変わる世が決して来ぬとは言えない日本

（大阪府・金蘭千里高３年）勝沼直也

世が世なら有名画伯の画廊なり信州上田の無言館こそ

（茨城県立結城第二高３年）郡司和斗

広島の被爆樹木に会いに行く声なき声に耳を澄ませて

（愛知県・金城学院中３年）中村桃子

一生をかけた非核の世界地図未完のままと無念抱き逝く

（北海道・立命館慶祥中２年）早坂日花

奨励賞は次の通り。（敬称略、５０音順）

【一般の部】

ほやほやの孫のふぐりを洗ふ時切に願へりいくさなき世を

（宮崎市）池江諭

日本が敗戦で得た悲惨さの幾重も深くアジアは泣いた

（愛知県一宮市）池野武行

スペインの次はアメリカ アンジェラは植民地でありし歴史に触れぬ

（岐阜県高山市）岩田妙子

シャッシャッと釜の米研ぐ俯いて戦死公報受け取りし母

（東京都葛飾区）上原厚美

被爆地は誰も裁かず人類の墓のごとくにドーム影曳く

（福岡市中央区）牛島勝也

外つ国の暴挙を怒る私の中にもあるかもしれぬ「火種」

（茨城県結城市）北島清子

ＮＯ ＷＡＲと涙を流し書く君よＮＯ ＢＯＲＤＥＲの架け橋となれ

（岐阜県高山市）小谷史征

髭剃らぬ師の温顔（おんがん）は痛々し愛（めぐ）し軍馬（うま）曳（ひ）くビルマの地にて

（岐阜県高山市）坂田壽美子

木曽川に手榴弾（しゅりゅうだん）訓練強いられし小学生に石重かりき

（名古屋市千種区）佐藤登喜雄

殺すのか殺されるのか選択を強いる場所へは人を送るな

（津市）田中亜紀子

いく万の無念を拭（ぬぐ）いて雨ぞふるきみも語り部われも語り部

（愛知県あま市）丹波真理

引揚の子はローセキで鍵盤を地べたに描きてピアノを弾けり

（北海道旭川市）長山京子

早苗田の畦に老爺は鍬担ぐ銃の重さを今も忘れず

（岐阜県高山市）松田繁憲

沖縄に七割超ゆる基地あるを他人（ひと）事とする我らの日常

（三重県伊勢市）八木昭

刻まれし礎（いしじ）の名前いつまでも撫でて媼はそこを離れず

（岐阜県高山市）和田操

【中学・高校の部】

「気を抜くな受験は戦争命懸け」あの日を知らぬ僕らが語る

（静岡県立島田高３年）赤井廉

「南洋の食事はフルーツたっぷり」と餓死せし兵の便りに検閲

（神奈川県・桐蔭学園中３年）アルトゥンタシュ オルン 元気

人間が物の如く燃えてゆくそんな世界を変えてゆきたい

（岐阜県・高山市立国府中１年）石田侑靖

「助けて」と言う間もないまま消えてゆく無念の残る石段の影

（岐阜県立吉城高１年）上道朱理

韓国人原爆犠牲慰霊碑の掃除欠かさぬ我が国の人

（岐阜県・高山市立朝日中３年）岡田倖弥

少年と名づけられてた死神が空から降った八月六日

（愛知県立明和高１年）岡庭梨紗

いつか観た故郷追われるあの子達（ら）の未来に願う僕達の日常

（北海道・立命館慶祥中１年）鎌田航太郎

慰霊碑の間に見える遺産からつらい現実心にきざむ

（岐阜県・高山市立久々野中３年）切手実李

原爆の資料館にいた異国人私と同じ場所でたたずむ

（愛知県立起工業高３年）五藤豪太

戦死して神になるより人として生きたかったはずの多くの命

（岐阜県・美濃加茂高３年）近藤ひろみ

その銃を作る鉄があるのならば釜を作って飯を炊かせよ

（岐阜県立飛驒神岡高２年）阪下一貴

この腕は人を助けるものなのだ人の命を消すためでなく

（岡山市立芳田中１年）坂本鈴奈

被爆した幼き姉妹に降りかかる死ぬる覚悟と生き切る覚悟

（愛知県立起工業高３年）佐藤誠也

唯一の被爆国の日本が唯一のままずっとありたい

（愛知県立明和高１年）菅原慎司

「戦（いくさ）す」は「せ・し・す・する・すれ・せよ」なれば未然形こそ尊けれ

（茨城県立結城第二高３年）菅谷人生

「小さな子」一人で街を吹き飛ばす名を忘れるなリトルボーイの

（岐阜県・高山市立荘川中３年）杉山暁星

僕たちは何のために産まれたか何のために戦ったのか

（岐阜県・高山市立丹生川中２年）滝村春樹

被爆者の忘れてならぬこの声を七十年また七十年後と伝承していく

（愛知県立明和高１年）土屋美奈

オバマさんヒロシマ訪問求むのは謝罪でなく核なき世界

（愛知県立明和高１年）中西舞

特攻の若者たちの遺言に強く書かれる母への想い

（岐阜県立各務原西高３年）成尾実紅

戦争で死んでしまった人々はぼくらに何を望むだろうか

（岐阜県立吉城高１年）野村正真

戦争を知らない世代の孫である私は十八歳（じゅうはち）選挙に行くぞ

（茨城県立結城第二高３年）馬場衣莉菜

痛くても生きようとする決意だけ伝わってくるしわしわの折鶴

（岐阜県立吉城高１年）平田華奈子

引き揚げの体験語る祖母の目に誓いしぼくの勇気と希望

（北海道・立命館慶祥中１年）藤本康佑

「ただいま」と何人の兵士帰ったかその四文字が言える平和よ

（岐阜県・高山市立東山中３年）舩坂穂乃香

地震より防げるはずの戦争をどうして止めないおろかな人よ

（静岡県立島田高３年）南マリアナ

七十年奇跡の平和を守りきる奇跡の百年築かん我ら

（岐阜県・高山市立朝日中３年）森下孔史

過ちを繰り返さぬと誓うのは他でもない全人類だ

（岐阜県・関ケ原町立今須中３年）山口眞京

戦争のあった歴史を忘れゆく人間たちのおろかな力

（岐阜県・高山市立宮中３年）山下潤

「過ちはくりかえしません」本当に先人たちに言えるか日本

（愛知県・名古屋高２年）山田祐太