投球練習をする長井駿君=山口県岩国市
15日に開幕する全国高校野球選手権の山口大会に隻眼の投手が出場する。岩国総合(岩国市)の長井駿君(3年)。左目を失明し、視界の左半分が真っ暗というハンディを抱えるが、自らの努力と仲間の支えで背番号10をつかんだ。初戦での登板を静かに待つ。
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セットポジション。右下手投げの長井君は投球動作に入る前、肩越しに走者の動きを確認する。だが、一塁手も、リードを広げる一塁走者も見えない。そんなとき、ベンチから仲間が叫ぶ。「リード大きい!」。振り返って牽制(けんせい)。チーム全体で長井君のハンディをカバーする。
左目の視力を失ったのは小学1年の夏休み前のこと。学校帰り、自転車で自宅近くの川の土手の細い道を走っていたとき、ペダルを踏み外した。川に逆さに落ちて頭を強く打った。
頭部を複雑骨折し、5時間の緊急手術の末、一命は取り留めた。だが、すぐに異変に気づいた。左側が何も見えなかった。翌日、医者から失明を告げられた。後遺症で視神経が機能しなくなったと言われた。
「しょうがないけ」。父の将直さん(39)からはなぐさめられたが、病室のベッドでは「なんでぼくが」と、そればかり考えた。
それでも退院すると、大好きなスポーツ少年団での野球を続けた。コーチの将直さんと練習開始1時間前にはグラウンドに行って、人より先に練習をした。
高校でも野球を続けると、今まで以上に違いを感じることが増えた。捕手から投げ返される球が意外に速い。捕手のミットも、顔を正面に向けないと位置を捉えきれない。一塁に走者を背負うと体をぐるりと回して確認する――。
そうした不自由さに周囲は気づいていなかった。1年の冬、長井君は部員の前で初めて左目のことを打ち明けた。「そうだったのか」。仲間は驚きながらも、プレーの中でサポートしてくれるようになった。
末藤英則監督(53)は「すごく真面目な子」と長井君を評する。四球が多いのが課題だったが、「外角に逃げるな」という監督の指導のもと制球を磨いた。その成果は5月末から現れ始めた。継投が基本のチームにあって、エースを支える控え一番手の座の背番号10を勝ち取った。長井君は「強い気持ちで優勝を目指す」と意気込む。初戦は開幕日の15日だ。(棚橋咲月)