「甲子園いくぞ!」。気合を入れる北摂三田の野球部員たち=三田市狭間が丘1丁目
北摂三田高校(兵庫県三田市)のグラウンドに5月7日、野球部員一人ひとりが書いた母親への手紙が掲げられた。練習試合の応援にやってきた母親たちが気付き、笑みがこぼれる。じっと見つめ、目頭を押さえる姿もあった。
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木地谷(きじたに)正也監督(34)がこの朝、49人の部員に問いかけた。「みんな、明日は何の日かわかる?」
「母の日」と、小さな声が返ってきた。「何かしたことある?」。反応がない。「じゃあ手紙を書こう」。そんな経緯だ。
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団野(だんの)倫太郎君(1年)は「やっぱり野球部に入ってよかった」とつづった。
小学3年生から軟式野球に打ち込んできたが、高校でも続けるか悩んだ。スポーツ用品店をのぞくと、硬式用グラブは5万円前後。テニスのラケットなら1万円以下のものも……。
テニス部に入部し、母に伝えた。すると、「気にしないでいいから、好きなスポーツを3年間やったらええよ」。翌日、野球部に入部届を出し直した。
初めて硬球を握り、「高校球児になったんや」とうれしさがこみ上げた。「お母さんのおかげ。感謝を伝えられてよかった」
三塁手の高橋玄(げん)君(3年)は「心配させてばかりだったな」と1年を振り返り、手紙を書いた。
昨夏に肩を痛め、一塁への送球が定まらなくなった。プレーへの不安がミスを呼ぶ悪循環。母に打ち明けると、「思いっきりプレーしないと。失敗を恐れても、心がもやもやするだけよね」と明快だった。
今も試合の朝、「ミスを恐れず、思いっきりやるんだよ」と送り出してくれる。「もうわかってるよってくらい、いっつも」と高橋君。「不安になったとき一緒に考えてくれ、自分には本当に欠かせない存在です」。そう書いた。
戸惑いつつ、黙々とペンを走らせた部員たち。マネジャーの竹井麻結さん(2年)は「普段はみんな大ざっぱなのに、ぎっしり思いをつづっていたのが印象的でした」。
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グラウンドには、ほかにもたくさんの「言葉」が並んでいる。
用具倉庫の壁には「北三(ほくさん)野球部通信」。マネジャーの吉田歩(あゆみ)さん(3年)の発案で、昨夏から毎月発行している。
キャッチボールの相手が学年の違う選手同士だと、かけ声がない。バスで一緒になっても黙ったまま。「学年を超えて、チームにもっとつながりができたらいいな」と思った。
1~3月号のテーマは「みんなのことをもっと知ろう」。好きな曲やお笑い芸人、将来子どもにつけたい名前などを部員にアンケートした。「お前、子どもをこんな名前にしたいん」。先輩から後輩にツッコミが入り、打ち解けていった。
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バックネットにも「がんばり、みーつけた」と名付けたホワイトボードがある。2、3年生一人ひとりの名前の横に、それぞれの「いいところ」を自由に書き込んでいく。
今春、マネジャーが書き始めた。「野球は勝負。厳しい言葉はよくあるけど、ほめることがあまりないのはさみしいなと思って」と久米美樹さん(3年)。
「お前何書いてんだよ」とマネジャーの肩をこづく選手たち。最初は気恥ずかしさが勝ったが、しばらくして主将の吉村啓(さとし)君(3年)がペンをとった。
「初球フルスイングの積極性」。練習試合で長打を放った仲間をたたえた。「みんなで書いてチームの士気がもっと上がれば」。ほかの選手たちも後に続き、ボードが字で埋まっていった。
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夏本番が近づき、ノックをするグラウンドに「今の取れたんちゃうかー」「ええプレーや」と選手たちの声が響く。「こう振ったら、もっと打てるで」。打撃練習では、そんなアドバイスが自然と出る。
「お互いを成長させる、意味のあるかけ声が生まれてきた」と吉村君。野球部通信やホワイトボードの言葉と向き合い、手紙を書いて、チームメートや家族の支えを実感した。
だからこそ思う。「1試合でも多く勝ち、一緒に甲子園をめざしたい」
■母の日に寄せて
最近、家に帰るのが遅くなったり、反抗的になったりしてすいません。北三に入ったからには勉強も部活動も精いっぱい頑張っていきたいと思います。機会があれば、試合を見に来てください。(洸成)
お母さんに手紙を書くのは受験の時以来かな? 毎日おいしいご飯を作ってくれる、洗濯してくれる、いつも心配してくれる。そしてたくさんの愛を注いでくれてありがとう。(侑真)
いつも何も言わず、面倒を見てくれてありがとう。車で30分かけて忘れ物を届けてくれたり、朝が早い日も弁当を作ってくれたりと感謝しています。これからも野球と勉強の両方を頑張っていきます。(誠司)
仕事で夜遅くに帰ってきて大変だと思うけど、いつも晩ごはんを用意してくれていてありがとう。体に気をつけて、くれぐれも無理しないようにお願いします。(大河)
いつも、洗濯、弁当、送迎、応援をしてくれてありがとう。夏の最後の日まで、ヒット、ホームランを1本でも多く打ち、ひとつでもアウトをとって、いっぱい活躍しようと思います。(壮太)
お弁当ありがとう。褒めてくれてありがとう。怒ってくれてありがとう。産んでくれてありがとう!!!(美樹)
■「がんばり、みーつけた」の書き込みから
・繊細だが自信をつけるとすごいプレー
・負けん気の強さ 筋トレでの頑張り
・ムードメーカー キーマン
・野球部No.1のイケメン
・にじみ出る人柄 愛されキャラ
・周りのことを考えている
・道具を丁寧に扱う
・全力疾走!! どんな時も丁寧なあいさつ
・ホームランが期待できる打者
・高校野球への熱い想い 坂ダッシュの真剣さ
・6―4―3のゲッツーはお前のおかげ!!
・ナイススマイル
・黙々とやる男
・泥くさく一生懸命
・1年の面倒をよく見てくださる
・フルスイングが最高 打球がすごい
・安定した守備 送球がすごい!
・何でも気づける 気配りができる