市和歌山―星稜 最後の打者を打ち取り、笑顔を見せる市和歌山の投手赤羽=林紗記撮影
(10日、高校野球 市和歌山8―2星稜)
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序盤はピンチの連続。星稜の強力打線につかまるのは時間の問題か――。そんな状態だった市和歌山の赤羽が、二回までの2失点のみで最後まで投げきった。
エースを支えたのは「甲子園のマウンドを楽しもう」という気持ちだった。
苦い思い出がある。今春の選抜大会の南陽工(山口)戦。0―0の九回無死一、二塁で投前バントを三塁へ悪送球して崩れ、一挙6点を失い敗れたのだ。
似た場面がこの日の二回にあった。無死一、二塁から投前へのバント。捕って三塁へ送球しようとしたところ、足がもつれて尻餅をついた(記録は安打)。無死満塁。チームに動揺が広がり、続く打者の二ゴロを河崎がこぼして失点した。
この時、マウンドへの伝令の言葉が「楽しんで投げろ」だった。試合前に自らに言い聞かせたが、ピンチになって忘れかけていたこの言葉。「エラーはつきもの。開き直って投げよう」。そう思った。「アドレナリンが出た」という。
この後の投球に、春からの成長が凝縮していた。川岸をスライダーで三振に仕留め1死。続く森田には、最も自信のある直球で攻めた。投ゴロから本塁―一塁へ転送し、併殺でピンチを脱した。三回も1死一、三塁で二ゴロ併殺。以降、ピンチでも腕が縮むことはなく、終わってみれば大会タイ記録の5併殺を奪った。
「何本ヒットを打たれても関係ないです」。毎イニング、マウンドに一礼して投球を始める律義で謙虚な右腕が堂々と言い切った。(吉村良二)