コンビニで取材を受ける芥川賞作家の村田沙耶香さん=東京都千代田区、山本和生撮影
コンビニエンスストアを舞台にした小説「コンビニ人間」で芥川賞に輝いた村田沙耶香(さやか)さん(37)のサイン会が24日、東京都内のコンビニであった。大手書店が定番のサイン会がコンビニで開かれるのは、極めて異例。その狙いは?
東京都千代田区のセブン―イレブン神田専大通り店。店内のチラシなどで予約を募り、サイン会には約130人が集まった。店内の四つの書棚を自身の小説が埋め尽くした様子に、村田さんは「異常としかいいようがない。こんな光景、見たことがない」と驚いた。
村田さんは作家業と並行して、アルバイトでコンビニ店員も続ける。「コンビニ人間」はコンビニ勤務の30代の女性が主人公。普通でないものを疎外する社会の偏狭さを描いて、高い評価を得た。ただ、コンビニでサイン会が実現したのは、そうした要因だけではなかったようだ。
芥川賞の発表は7月19日。「受賞が決まった瞬間、版元さんに(サイン会開催の)電話をしました」。店舗数約1万9千(7月現在)の業界最大手、セブン―イレブン・ジャパンで出版物を担当する伊藤敦子さんは明かす。
雑誌の売り上げは出版不況で急速に落ちている。コンビニ経営者から、雑誌の棚を減らし、利益率の高い商品を置きたいという声も上がる。同社では、5年ほど前からセブン―イレブン専用に再編集した実用書の販売など、書籍を売る取り組みを進めてきた。
「コンビニのオーナーさんにもお客さんにも、単行本をコンビニに置くことへの理解を広げる最大のチャンス。偶然ですが、天恵のような作品です」と伊藤さん。
サイン会会場で村田さんは「単行本が売れるかどうか分からないですけど、コンビニにいろんな本が並ぶのはうれしい」。職場が近く、昼食を買う時にサイン会の開催を知ったという岡本彩さん(31)は「食べ物と一緒に小説を買うのは新鮮。気軽に買えるのは楽しい」と話した。
文芸春秋によると、「コンビニ人間」の刷り部数は35万部。セブン―イレブンの店舗内の端末経由では約3千冊が売れ、他の本の100倍の売れ行きという。
期待をかけるのは、業界2位で、店舗数約1万2千(7月末現在)のローソンも同じだ。2年前から一部店舗に本棚を置き、200冊程度の単行本を売る。「マチの本屋さん」と呼ぶこうした店舗は今、全体の1割強、約1300店に上る。一斉に「コンビニ人間」を売り出すキャンペーンを展開中だ。