浸水した車両=31日午後3時10分、北海道南富良野町、朝日新聞社ヘリから、時津剛撮影
北海道では各地で河川が氾濫(はんらん)し、住宅や道路、鉄道が濁流に襲われた。
「街が湖のよう」 台風で冠水、住民は車の上に避難
高齢者施設に9人の遺体、大雨で土砂流入 岩手・岩泉
岩手・北海道で氾濫・浸水相次ぐ 11人死亡1人不明
31日未明に空知川の堤防が決壊し、広範囲にわたって浸水した南富良野町幾寅(いくとら)地区。住人の女性(74)は午前5時ごろ、水につかった乗用車の上で、家族5人が身を寄せ合うようにしゃがんでいるのを目撃した。両親と子ども3人で、父親は幼い子ども2人を抱きかかえていた。
水は屋根近くまで迫っていた。ほどなくヘリコプターが上空に到着。次々と引き上げられたという。
女性自身も恐怖の一夜を過ごした。1階で寝ていたが、この日午前1時すぎ、水の音で目が覚めた。ベッドから降りると床はすでに水浸しになっていた。
玄関のドアを開けようとしたが、水圧で開かない。流木や車がぶつかる音が響いた。当時、夫は旭川市に出かけて不在で、家にいたのは女性だけだった。ひざまで水につかりながら2階に避難。その後、「バーン」という大きな音がして玄関が壊れ、一気に水が流れ込んできたという。
夜が明け、水は引いたが、1階の家具はひっくり返って泥だらけになっていた。避難所にたどり着いたのは昼前。「長年住んでいるが、こんなことは初めて。これからどうなるかわからず不安です」
女性の自宅近くにある障がい者支援施設「南富良野からまつ園」でも午前1時ごろ、玄関から水が浸入。職員たちが、1階に個室がある知的障害者ら約40人を2階に避難させた。約20人の職員は一睡もせず、入居者の世話や1階の排水に追われた。同園の熊谷力支援課長(48)は「入居者にいつまでもこの生活はさせられない。早く道路を復旧してもらって数日以内にはなんとか元通りにしたい」と話した。
釧路市の女性(73)は、夫と次男と札幌から帰宅する途中の30日午後6時ごろ、新得町付近の国道で土砂崩れに遭遇した。隣町の南富良野町にある避難所の一つに駆け込んだ。「見知らぬ土地ですが、避難できてホッとしました」
だが、31日未明に空知川の堤防が決壊。避難所の玄関のガラスが割れ、水が流れ込んできた。女性がいた1階は浸水し、2階で明るくなるまで過ごした。ボートで救助され、別の避難所へのさらなる避難を余儀なくされた。札幌に住む長男が迎えに来る予定だが、道路の復旧も進んでいない。「早く帰りたい」
帯広市内を流れる札内川の堤防も決壊した。川沿いの5・5ヘクタールの畑でバレイショやビートを作っている高橋孝一さん(68)は31日午前5時ごろ、心配で見回りに来ると、畑は水没していた。「堤防が壊れるなんて……」と信じられなかった。作物被害で約400万円、畑の復元に約500万円を見込む。国からの補助金が上乗せされる激甚災害に「何とか指定してほしい」と話した。
道内では、大樹町などで車が流され、3人が行方不明になっているという情報がある。伊達市では、伊達自動車学校にある倉庫の屋根が台風ではがれ、確認のため屋根に上っていた校長(54)が転落し、意識不明の重体となった。
札幌管区気象台によると、今回の雨は、8人が死亡し、道内で戦後最大の水害となった1981(昭和56)年8月の「56水害」に匹敵する雨だったと説明している。
芽室川の濁流が住宅地に流れ込んだため、避難をした芽室町の会社員男性(59)は「ここに住んで33年になるが、こんなことは初めて」と語った。(坂東慎一郎、池田敏行)