男子ダブルス2回戦、ラリーを続ける国枝慎吾=金川雄策撮影
車いすに乗ってテニスをするパラリンピックの競技があります。その名も「車いすテニス」。勝つためにはテニスの技術に加えて、車いすを自在に操る「チェアワーク」が不可欠です。それだけに車いすとの相性は重要で、1500万円をかけてオリジナル車いすを特注したと言われる選手もいます。F1レースの技術が市販車に還元されるように、競技の世界で培った技術を日常用車いすに採用しているメーカーもあります。
リオパラリンピック
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■カーボン製の特注品
リオデジャネイロ・パラリンピックのテニス会場。明らかに他の選手とは異なる車いすの選手がいます。世界ランキング1位、フランスのステファン・ウデ選手です。11日(日本時間12日)、シード選手のためこの日の2回戦から登場です。立ち乗り電動二輪車「セグウェイ」のように滑らかにコートを動き回るウデ選手。くるりと旋回してショットを決めたり、コート際のきわどい球を打ち返したり。あまりに機動性がいいのか、コートを囲む壁に激突して横転するハプニングもありましたが、対戦相手の英国選手を寄せ付けず、6―1、6―2で勝利しました。
ウデ選手の車いすはカーボン製で、彼専用の特注品です。このため価格は一気に跳ね上がり、一説には1500万円以上と言われています。本人に尋ねてみると「研究・開発に2000時間かかっている。値段は単純には算出できない」。日本の車いすメーカーの技術者は「カーボン製で選手専用の特注品となると、数千万円はかかる」と話しています。まさに高級自動車なみの車いすです。
車いすの座面は小さく、座ると言うよりもひざで立ち座面に寄りかかるような形でプレーをしています。ウデ選手は「機動性に優れていて、より早く、パワフルに動くことができるようになった」と乗り心地の良さを実感しています。
■国枝選手は約45万円
一方、ウデ選手のライバルで、リオ大会で男子シングルス3連覇が懸かる国枝慎吾選手の車いすは45万円ほど。アルミ製の市販車を使用しているため、この価格で収まっています。開発・製造を手がけているのは千葉市に本社あるオーエックスエンジニアリングです。車いすテニスのトップ選手だけでなく、陸上競技や車いすバスケットボールの選手などが信頼を置く、「車いす界のポルシェ」とも称されるトップメーカーです。
車いすというと福祉器具のイメージが強いですが、オーエックス社の場合、創業者がバイクレーサーだったこともあり、製造・開発にはモータースポーツの精神が宿っています。早く、そして軽く、より洗練されたデザインの車いすを生み出してきました。そして競技の世界で鍛えられた高い技術力は、日常用の車いすにもフィードバックされています。
例えば、車いすのパイプ。トップ選手の車いすに使われているねじれに強いひょうたん形の形状が、日常用のラインナップの一つにも採用されています。また、陸上競技用の車いすをモチーフにした機種はサスペンションを付けることもでき、よりしなやかな乗り心地を体感できます。
オーエックス社製の車いすは、過去7回の夏・冬のパラリンピックで100個以上のメダルを獲得してきました。リオではいくつのメダルが生まれるのか。その数だけ日常用車いすの性能も上がっていくのかもしれません。(向井宏樹)