映画の登場人物に扮した寸劇=高梁市成羽町中野
推理作家、横溝正史(1902~81)の代表作「八つ墓村」が映画、ドラマ化された際のロケ地を巡るバスツアーが10日あった。横溝が現・岡山県倉敷市真備町に疎開中に名探偵金田一耕助シリーズを書き始めてから今年で70年。根強い人気を裏付けるように、県外からの7人も含め37人のファンが参加したツアーに同行した。
49年に発表された「八つ墓村」は金田一シリーズの長編第4作。横溝は、現・津山市で38年に起こった「津山三十人殺し」と呼ばれる猟奇的な事件をヒントにした。映画が3本、テレビドラマが6本作られるなど、最も多く映像化された横溝作品でもある。
バスツアー「金田一号で巡る八つ墓村紀行」はJR倉敷駅発着で高梁市成羽町の吹屋地区を回った。金田一の扮装でガイド役を務めた笠岡市在住の横溝正史研究家、網本善光さん(56)は道中、「金田一が登場する事件は長編、短編合わせて全部で77あるが、岡山が舞台の作品は13と意外に少ないんですよ。難事件が多いので岡山の印象が強いのかもしれませんね」と解説した。
小説「八つ墓村」は「八つ墓村というのは、鳥取県と岡山県の県境にある山中の一寒村である」という一文で始まる。「この辺の牛はひとくちに千屋牛(ちやうし)とよばれて、役牛としてよく肉牛としてよく、近所の新見で牛市が立つときには、全国から博労(ばくろう)が集まるくらいである」との説明もあり、新見市周辺を舞台に想定していると思われる。その村の旧家・田治見家ゆかりの人が次々に殺されていく。
ツアーの一行が最初に訪れたのは吹屋地区にある「広兼(ひろかね)邸」。江戸末期に建てられた富豪の邸宅で、城のような石垣を誇る堂々とした構えから、77年と96年の映画化の際には、田治見家の屋敷として撮影された。
一行が入り口に近づくと、鎌を持った老女「濃茶(こいちゃ)の尼」が「たたりじゃー」と叫びながら飛び出してきた。倉敷市の横溝疎開宅跡の地元住民で、毎年、金田一の仮装行列を盛り上げている岡田地区まちづくり推進協議会の人たちがツアーに協力。映画の登場人物に扮して雰囲気を盛り上げた。ほかに田治見家の葬儀の場面を撮った大塚墓なども訪れ、映画の写真と見比べながら、カメラ位置などを探して周辺を散策した。
参加者の一人、川崎市の私立高校助手、稲葉淳子さん(44)は「どろどろした世界観が好き」で横溝作品を愛読しているという。「実際にロケ地を歩くと映画の中に入り込んだような気分になります」。さいたま市の会社員、石川純一さん(50)は、小学生の頃から江戸川乱歩、怪盗ルパンシリーズと読み進み、金田一に出会ったという。「今も映画と同じ雰囲気が残っているのがすばらしい」と感慨深げだった。(三浦宏)