公立中学、これだけ支払う
公立中学の制服の価格に各地で差があることや、より安く入手できるようにするためのヒントについて8月20日付朝刊などで報じました。すると「制服も高いが、副教材費など学校集金もバカにならない」という声が寄せられました。どんな問題があるのでしょうか。
【アンケート】中学校の制服、どう思う?
小学5年の娘(10)がいる東京都の女性(42)は、これまで1年生で鍵盤ハーモニカ(6千円)、2年生で絵の具セット(4千円)、4年生で彫刻刀セット(3千円)、5年生で裁縫セット(3千円)などを学校があっせんする業者から購入してきました。そのたび、スーパーやネット通販で、似た商品の値段を調べるそうです。「同じ銘柄の絵の具が入ったセットがスーパーで1500円で売られていた」といいます。
学校があっせんした道具の購入は強制ではない、と学校から説明されました。量販店で安く買う保護者もいますが、女性は「子どもがみんなと一緒のものをほしがるから」と、あっせんのものを買っています。
「強制でないなら、なぜ学校が仲介するんだろう」と疑問は消えません。「質にこだわらなければ100円ショップで買えるし、ネット通販も注文翌日に届く。今も学校が仲介する必要性はあるのでしょうか」
学校は毎年、何の名目でいくら保護者から集めているのか。朝日新聞は、ある関東地方の市立中学校が2014年4月、保護者に配った、その年度の学年別の集金額の内訳が載った資料を分析しました。
割合が大きいのが給食費で、年約5万4千円。旅行費は1、2年生の間に合わせて10万円を積み立て、修学旅行、林間学校などにあてます。3年生では卒業アルバムなどを作る卒業対策費が加わります。PTA会費や学級学年費は月120~300円ですが、何に使われているのか説明する資料はありませんでした。
授業で使う副教材費の大半は副読本やドリルです。実技系教科の製作キットも目につきます。
■公会計化し、透明性の確保を
そもそも学校集金とは。さいたま市の学校職員を38年勤め、「子どもの貧困と公教育」などの著書がある「教育行財政研究所」主宰、中村文夫さん(65)に聞きました。
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学校集金の大半は、税金を始めとする「公金」に準じた「準公金」の位置づけです。集めたお金を出し入れする口座は校長名義、いわゆる「私会計」。水道料金を水道局長名義の口座に納めているようなものです。自治体職員が税金の運用・管理を担って議会も審議する「公会計」に比べ、使い道や使い方が厳密に問われないためチェックは甘くなり、職員らの着服が後を絶ちません。
今年7月、高知県土佐市の中学校の事務職員が、生徒活動費の口座などから5年間で計約400万円を着服、懲戒免職されました。流用されるほどの額が口座に残っていたのも、私会計ゆえの管理の甘さと言えます。
ほかにも、PTA役員が集金をまとめたり、払わない保護者に教職員が督促したり、未納世帯の子どもに給食を食べさせなかったりと、公会計であれば考えられない慣行が各地の学校で続けられてきました。
こうした実情を踏まえると、安全性や透明性を確保するため、学校の金銭管理も自治体の仕事と位置づけ、公会計で運用するのが筋です。
学校関連で公会計化が最も進んでいるのが給食費です。今年6月、文部科学省は給食費を役所のお金として集めてやりくりするよう都道府県教委に通知しました。自治労学校事務協議会政策部の調べでは、9月20日時点で473市区町村が給食費を公会計で扱っていました。
税金で賄う「無償化」が進んでいるのも給食費です。同じ調査で、51市町村で無償、148市区町村で第3子以降を無償にするなどの一部無償・補助が始まっています。
公会計に変われば、漫然と続けられてきた保護者負担の慣行が、保護者が払うべきか税金をあてるべきか、議会でもっと議論されるようになるでしょう。こうした手続きをへて、憲法26条にある「義務教育の無償」が、理想論から現実の課題になっていくと期待しています。(聞き手・錦光山雅子)
■「無償化」探る自治体も
憲法は義務教育を「無償とする」とし、教育基本法は「授業料を徴収しない」と定めています。ただ、大半の自治体では給食費や修学旅行費などは保護者が負担しています。
こうした費用の大半を公費負担とし、義務教育を「無償化」している自治体が、全国で少なくとも7町村あります。「無償化」の中身は自治体によって少し異なります。
山梨県早川町は、給食費▽修学旅行費▽卒業アルバム制作費▽教材費▽卒業制作経費▽社会科見学費▽授業としてのスキー・スケート教室代を公費でまかないます。鍵盤ハーモニカもホース(吹き口)は保護者が買いますが、楽器本体は学校の備品としてそろえています。ただし、運動着▽中学校の制服▽筆記用具▽縄跳びの縄▽粘土▽九九カード▽書道セット▽裁縫セットなどは「私物品」として対象外です。
やはり「無償化」の福島県金山町の場合、小中学校の運動着と中学校の制服の各1セットは無償。今年度、小学生の運動着はシャツ(長袖、半袖各1枚)とハーフパンツのセットで1万2400円。中学生の制服は女子がブレザー、スカート、ブラウス(長袖、半袖各1枚)、リボン、ジャージー上下のセットで5万7648円、男子は5万8188円だったそうです。
一方で、譲り渡しや貸し出しによって、家庭の負担を減らそうという動きもあります。水戸市立双葉台小学校のPTAは00年以降、上級生や卒業生らから不要になった学用品をもらい受け、希望者に譲る取り組みを続けています。また、同市教委は、算数セットを各小学校で用意しておき、全児童に貸し出しているそうです。「なくしたり壊れたりしたら、その分、学校予算で補充してもらう」(同市教委)とのことです。
■子育て世代守る責任、行政に
2012年度から小中学校にかかる費用の大半を公費で負担、義務教育を「無償化」している山梨県早川町(人口約1100人、9月1日現在の小中学生は70人)の深沢肇・前教育長に聞きました。
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教育長に就任した11年当時、町内に2校ある小学校のうち1校は、翌年度の児童数が4人になりそうという状況でした。何とかして学校を残したい。子育て世帯をこれまで以上に支援しようと考えました。
「義務教育は無償」と言っても、実際には保護者の費用負担がかなりあります。当時、既に給食費や修学旅行費の半額補助はしていました。試算すると無償化に必要な予算は約500万円。このうち新たに250万円を生み出せば実現できる。学校、行政、議会関係者で検討委員会を立ち上げ、無償化の是非や実現の方法を話し合いました。
教育予算は増やさずに捻出するため、3路線あった中学生の登校時のスクールバスのうち1路線を廃止。町営バスの運行時間をずらし、こちらに乗ってもらうことで年間100万円分を浮かせました。残る150万円は、コピー用紙やプリンターのインクカートリッジ、どの先生も必ず使うわけではない教具など、学校の備品や消耗品の購入を徹底的に見直すことで捻出しました。学校には「予算要求は極力圧縮して。年度途中で不足すれば必ず補正予算で対応するから」と。実際、補正の要求はほとんどありません。
祭りなど地域活動の担い手となり、災害時にも頼りになるのは子育て世代です。この世代がいなければコミュニティーが機能しない。その世代を守ることは地域を守ることでもあり、それは行政の責任です。過疎で最も怖いのは、世代がつながらないこと。人口1万人でも100人でも、子どもがいればコミュニティーは消滅しない。でも、世代がつながらなければ、その地域や文化は消滅してしまう。それだけ学校を守ることの意味は重いのです。
03年から受け入れている山村留学生も含め、「早川の子どもは日本の子ども」と考えています。いずれ町を出るとしても、やがて日本を背負い、世界に羽ばたいていく子どもたちです。この小さな町でできる精いっぱいのことをして育てていくのは当然のことだと思います。(聞き手・三島あずさ)
■アンケートでも「支出多い」「割高」
朝日新聞デジタルのアンケート「中学校の制服、どう思う?」にも声が寄せられています。東京都の40代女性は「義務教育だから費用がかからないと思ってしまいますが、制服、部活、ワーク類、給食、修学旅行積み立て、PTA会費、検定(自由参加ですが漢検・英検)など学校関係の支出は結構多いです。就学援助の対象になるかならないかの境目あたりの収入だと結構きつい」といいます。
ほかにも、「制服以外の学校関連支出については疑問だらけです。購入の必要の有無(個人購入か共同購入か公費負担か)、購入の仕方、価格まで、大いに検討すべき」(北海道・40代女性)、「体操服、靴下、靴、カバン、傘、文房具、自転車(色や形状)等々、学校が色々と指定しており、指定製品に限って通常の製品よりも割高なので、経済的な負担につながっています。他に安価な製品があるにもかかわらず、学校側が指定する製品を購入しなければならないことに疑問を感じます」(岐阜県・40代男性)といった声がありました。
■透明化の流れに取り残されているのでは
「学校集金は払うものだ」と漠然と思っていました。でも、必要性の説明、積算根拠、使い道がいずれもあいまいな現状は、自治体会計を透明化する流れに取り残されていると感じます。学校での購入を見直すことで、教育費の無償化に近づくことができると、山梨県早川町の取り組みが示しています。外の目を学校集金の使い道に向ける。それが「何でこんな物にこんなに?」を減らす一歩だと思います。(錦光山雅子)
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