写真⑥アイネズに向かう途中、石炭から天然ガスに転換したばかりの発電所「ビッグ・サンディー(Big Sandy)」の横を通る=ケンタッキー州、金成隆一撮影
■「トランプ王国」を行く:10 @ケンタッキー州アイネズ
ペンシルベニア州からさらに南へ、ケンタッキー州の街アイネズ(Inez)をめざす。街に入ると、トランプ氏を支持するポスターに何度も出くわす=写真①
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アイネズは、半世紀ほど前の1964年、「貧困との戦い」を宣言した民主党のジョンソン大統領がヘリコプターで降り立った街。全米メディアが同行し、大統領と失業した炭鉱夫の面会を報じた。おかげでアイネズは「アパラチアの貧困の代名詞の街」になった。
アイネズでやっと食事のできそうなダイナー(食堂)を見つけた=写真②。目立った看板もなく、米国旗が壁に掲げられている。
平日の午前10時前。すでに地元のお年寄りが6人集まって、コーヒーを飲んでいた。周囲の別のテーブルの客も含め、全員が白人の高齢男性で、カントリー・ミュージックの人気歌手ドリー・パートン(Dolly Parton)の話で盛り上がっていた=写真③。
「死ぬ前にもう一度、ドリーに会いたい」「すぐにテネシー州のコンサートに行こう」「My God! Heart Breaker!」
常連客の会話に店員も苦笑している。その店員に何を注文するべきかと聞くと、「グレイビーソース付きのビスケットが一番」と教えてくれた。言われたとおりに注文し、6人の隣のテーブルに着席した。
「ほお、なかなかいい注文だね」と声を掛けてきたのは、ラッセルさん。元高校の数学教師で6人のリーダー役のようだ。
アパラチア山脈の街はどこでも似ているが、この街も白人が92%。アジア人はほとんどいない。
ラッセルさんは、年齢を教えてくれなかったが、64年当時、ジョンソン大統領の演説会場に教師として生徒をバスで連れて行ったという。地元の事情を解説してくれた。
「一帯は炭鉱産業で栄えたが、それをすっかり失い、すべてを失った。炭鉱はすべてだった。ここには工場もない、店もない。自動車産業で世界を引っ張った米国というのに、この街では新車も買えない。どこを探しても新車を売っていない。古くなった車がグルグルと住民の間を巡り巡っているだけ。道を走っているのは、みんな中古車だ。新車が欲しけりゃ、郡の外に出ないといけない」
米国なのに新車が買えない、と…