コートジボワール代表のMFドゥクレとボールを競り合うマルセイユの酒井(左)=AFP時事
欧州のプロサッカーで、もまれ、生き抜き、成長し、日本代表での活躍につなげる――。右サイドバックに定着したDF酒井宏樹(26)も、その1人だ。23日にワールドカップ(W杯)ロシア大会アジア最終予選が再開する。同日、B組2位の日本は、敵地で4位のアラブ首長国連邦(UAE)と、28日に本拠で6位のタイと対戦。残り5試合、上位4チームが勝ち点1差でひしめく混戦を抜け出すには、酒井の存在が欠かせない。
「UAEに必ずリベンジする」 ハリルJのDF酒井宏樹
フランスのサッカーが、怖くなった。
昨年8月21日にあったフランス1部リーグの第2節。マルセイユに移籍したばかりの酒井宏樹(26)はギャンガン戦に右サイドバックで先発した。開始直後にドリブルで攻めて来たのは、名前も知らない20歳のアフリカ系フランス人。ボールを奪えると思って足を伸ばしかけたとき、加速した相手が一気に前へ。突破を許し、その流れから失点した。「一歩目のバネが違う。フランスには、化け物がゴロゴロいる」
1対1での守備力は自分の武器だと思っていた。昨季まで4シーズンいたドイツ1部のハノーバーでは、相手チームで一番足の速い攻撃の選手のマークを常に任されていた。欧州最優秀選手に選ばれた元フランス代表のMFリベリ(バイエルン・ミュンヘン)を何度も抑えてきた。そうやって積み上げてきた自信が、一瞬で崩れた。
ショックに打ちひしがれている暇はなかった。「このままだと居場所が無くなる。家族を養えるかどうかにかかってくる」。ドイツ時代も不調でベンチから外れると、ポジションを奪い返すのに苦労した。欧州でシーズンを通して定位置を守る難しさを、嫌というほど味わってきた。
サイドバックとしては恵まれた183センチの体に頼ってきたプレースタイルを、捨てた。
どんなに下位のチームが相手でも、自分がマークにつく可能性のある選手の映像を繰り返し見るのが当たり前に。分析スタッフから送られてくるデータを元に、相手選手の利き足やプレーの癖も頭にたたき込むようになった。隣にポジションを取るセンターバックには、自分が突破を許したときにカバーしてくれるよう頭を下げた。「ストライカーは点さえ取れば負け試合でも評価される。でも、DFは無失点で勝たないと話にならない」
サッカーに対する考え方が、大きく変わった。「準備がすべて。おごりを捨てて相手を分析し、いかにやられる確率を下げられるかが勝負」。日を追うごとにミスは減っていった。今季のリーグ戦はここまで30試合中28試合に出て、そのうち26試合がフル出場。10日に本拠であったアンジェ戦のマッチプログラムでは、酒井のインタビューが大きく取り上げられていた。入団1年目にして、チーム内で確たる地位を築きつつある。
酒井が所属するマルセイユは9…