生後9カ月の男児が誤嚥(ごえん)したおしゃぶり。人形の付属品だった=日本小児科学会提供
子どもの遊ぶおもちゃが、子どもの命を奪う危険がある――。玩具を口に入れ、気管に詰まらせる誤嚥(ごえん)事故がなくならないことから、国の機関が調査に乗り出した。業界も自主的な対策を取るが、事故を防ぎ切れていない現状がある。
「注意喚起がなされているなかでも事故がなくならない点を重視した」
消費者庁の消費者安全調査委員会(消費者事故調)の宇賀克也委員長は、調査に踏み切った理由を話す。
判明しているだけでも、小さなボールや人形の付属品を詰まらせ、2008年から15年の間に0~3歳の4人が死亡している。事故調は今後、玩具メーカーなどから聞き取りを行い、具体的な再発防止策を経済産業省などに提言する。
誤嚥は、食べ物や異物が食道ではなく気管に入ってしまうこと。詰まらせて窒息死する危険性があるうえ、取り除いても脳に障害が残ることがある。日本小児呼吸器学会の調査によると、3歳以下の誤嚥事故の原因の1位はナッツ類。ミニトマトや白玉団子でも詰まらせる恐れがある。
今回の調査はおもちゃ限定で、事故調でも「食べ物を含むべきだ」「たばこや電池はいいのか」という議論はあったが、宇賀委員長は「最も身近な玩具に対象を絞り、踏み込んだ調査をする」と説明した。
日本玩具協会は自主的に安全基準を定め、合格したおもちゃは安全マーク(STマーク)をつけることができる。基準では窒息の危険性を考え、3歳未満対象のおもちゃや部品は直径31・7ミリの円筒内に収まってはならないとしている。食べ物を模したり、食べ物に似た匂いがしたりするものにも規格を設ける。
大手メーカーのタカラトミーは、着せ替え人形「リカちゃん」の一部の靴に苦みの成分を塗っている。小さな部品を誤って口に入れてもすぐにはき出せるようにする独自の対策だ。のみ込んでも窒息しないように部品に通気孔を開けるメーカーも多い。
なぜ悲劇は起きるのか。昨年8月に9カ月の男児が死亡した事故では、人形の部品だった1センチ大のおしゃぶりで窒息が起きた。人形は3歳以上が対象で、STマークも取得。5歳だった男児の姉のものだった。
3歳以上対象のおもちゃは基準より小さくても、警告表示があればSTマークをつけられる。事故調の関係者は「兄や姉のおもちゃを下の子が口にするケースは多い。対象年齢のある玩具のあり方も問われる」と指摘する。一方、日本玩具協会の担当者は「すべてを3歳未満の基準に合わせては、おもちゃが成り立たなくなる」と話す。
有料会員に登録すると全ての記事が読み放題です。
初月無料につき月初のお申し込みがお得
980円で月300本まで読めるシンプルコースはこちら