日本銀行の黒田東彦総裁
■黒田東彦(はるひこ)・日本銀行総裁
(金融と情報技術を組み合わせた)フィンテックは大きな潜在力を持っている。顧客に合わせたサービスもより容易だし、店舗やATM(現金自動出入機)が金融サービスの必要条件ではなくなってくる。
課題もある。サイバー攻撃への対応や情報セキュリティーの確保が一段と重要な課題で、金融当局の規制が、フィンテック企業には必ずしも有効とは言いにくくなっている。高頻度取引やアルゴリズム取引が、市場変動を増幅しているのではないかといった論点もある。政策当局として、市場に及ぼす影響を一段と深く理解していく必要がある。
コンピューターやAI(人工知能)が発達すれば、いずれ人間のやることがなくなるという見方も聞かれるが、私は懐疑的だ。むしろ、能力をより生かせる可能性が広がった。金融イノベーションが人間の可能性を奪うとは考えにくい。金融イノベーションが金融の効率性を高めるのであれば、経済の発展にも寄与するはずだ。
フィンテックを象徴する新技術の一つである分散型元帳技術の各種の実証実験が民間で進められるなか、中央銀行にも、このような新技術への深い理解が一段と求められている。ただし、銀行券や中央銀行が運営する決済システムへの応用という趣旨ではないことは、強調しておきたい。
日銀はフィンテックの健全な発展を支援し、これが金融サービスの利便性向上や経済活動の活性化に結びついていくよう、最大限の貢献をしていく。(都内の会合でのあいさつ)