「日の里ファーム」のビニールハウスで作業をする住民=福岡県宗像市
福岡県宗像市の「日の里地区」は、福岡と北九州のベッドタウンだった。217ヘクタールの敷地に日本住宅公団(現UR都市機構)が開発した5階建て団地68棟と高層の4棟が立ち並び、周囲に戸建て住宅が集まる。当時は九州で最大規模のニュータウンと呼ばれた。
だが開発から約半世紀が過ぎ、建物は老朽化。同地区の人口はピークの1993年から2割近く減った。3人に1人は65歳以上になり、団地の住居は4分の1が空き家だ。かつて通勤通学客があふれたJR東郷駅までの道は人影もまばら。そんな団地に、URがビニールハウスを作ったのは、昨年4月のことだ。
「小松菜ですね。いま収穫しますから」
12月下旬の日曜日。子どもの遊び場だった場所に建つ約260平方メートルのハウスには、近所の人たちが訪れ、ここで育てられた小松菜やチンゲンサイ、わさび菜を買い求めていた。入り口には、「新鮮野菜」の旗。日曜恒例の朝市の風景だ。
野菜を作って売っているのも、団地住民。「コミュニティー(地域共同体)を形成するためだった」と、UR九州支社で団地の再生を担当する西村正則さんは、狙いをそう説明する。近所付き合いが薄いとされる団地。ここに住んで40年超の才畑清さん(75)は、週1回の農作業を楽しんでいる。そんな彼も「定年になるまで、近所の人とまともに顔を合わせて話したことがなかった」という。