元警察庁長官の国松孝次氏=東京都港区、堀英治撮影
外国人を「生活者」として受け入れませんか――。かつて警察庁長官を務めた国松孝次さんが、そんな提言をしている。治安悪化やテロを心配する声もあるなか、なぜ国松さんは外国人の受け入れを説くのか。そう考えるに至った体験や受け入れのあり方、そして警察幹部や日本政府、社会全体へのメッセージを聞いた。
――警察庁長官をされた国松さんが、外国人の受け入れを呼びかけるのは意外な印象です。
「先日もある政治家の方から『国松さんともあろう人が、どうしちゃったんですか』といわれましてね。どうも世の中の人は、警察の関係者といえば移民や外国人の受け入れにトータルに反対するものと思い込んでおられる。私は何も無条件に外国人を増やせとは主張していません。受け入れるならきちんと態勢を組みましょう。その方が治安はきちんと守られるんですよ、と。私としてはなんら矛盾はありません」
「私が警察庁刑事局長だったころ外国人労働者が日本に入ってきて、たくさん捕まっているとメディアでも騒がれましてね。でも警察にいても、外国人の方が罪を犯す率が高いという実感はなかったですなあ。人数が増えれば検挙数が増えるのは当たり前ですよ」
――それでも、外国人の受け入れが必要だと考えるに至ったきっかけは何ですか。
「日本大使としてスイスに滞在した3年間です。こりゃあスイス人的な知恵で日本も外国人受け入れに取り組まないと大変なことになる、と危機感を持ちました」
――スイス人的な知恵とは。
「スイスの人口800万人の4分の1が外国人の定住者や短期労働者。難民にも寛容です。取締役に外国人がいる企業はざら。しかも特別視しないのです。日本大使公邸の使用人は3人とも外国出身者でしたね」
「立派だと思うのは、外国人に言語教育や職業訓練を施し、能力に見合う仕事や役職に就く機会を与えていることです。使用人のフィリピン出身女性は地域のキリスト教会で要職を任されていました。でも罪を犯せば強制退去などの厳しい措置が取られ、社会に溶け込む意思も能力もなければ滞在許可の延長が拒否される場合もある。硬軟を使い分けるんです」
「基本理念は『assimilation(同化)』ではなく、『integration(統合)』。経済、社会、文化的にスイスに溶け込んでもらうのが最優先で、政府もそのためにカネを出す。固有文化を守ることにはとやかくいわないけれど、移民だけで固まるのは妨げになるのでやめてほしい、という姿勢です」
「そもそもスイスの時計産業はフランスからの移民が、繊維産業はイタリアからの移民が築きました。スイス人も傭兵(ようへい)として外国に出て、稼いできた。国を開いて豊かになった自負があるんですなあ。だから『プラグマティック(現実主義)』という言葉が大好きです。人道主義と国益の両立を考え、いいものは採り入れて、守るべきは守る。もちろん全てがうまくいっているわけではないし、近年は移民排斥の声も出ています。欧州の真ん中にあるスイスとアジアの島国の日本では地理も歴史も違います。でも、国土が狭くて『人材こそが資源』という点は似ていませんか」