男子マラソンで日本人トップの8位でゴールする井上大仁=諫山卓弥撮影
(26日、東京マラソン男子)
「全く目立ちませんが、日本人2位で30キロを通過」。自虐的にチームがツイートした井上が、37キロ過ぎ、とうとう設楽悠を捉え、テレビにも大きく映された。スパートの瞬間は中継されなかったが、38キロ付近で設楽を一気に引き離して東京駅前に戻ってきた。「日本人トップはすごく自信になる」と笑った。
日本勢首位は井上大仁 2時間8分22秒 東京マラソン
キプサング、国内最高記録で初V 東京マラソン
勇気ある挑戦だった。
世界記録より速くレースが展開する中、代表選考がかかる日本勢は、二択を迫られた。恐れず追うか、日本人向けのペースメーカーで中盤まで乗り切り、後半の逆転にかけるのか。井上、設楽ら数人だけが前者だった。
井上は、昨年に同い年の村山謙(旭化成)がただ一人、東アフリカ勢を追って中盤に失速した東京マラソンをテレビで見て「無謀だと言う人もいるけど、あれをやり続けないと勝てはしない」と考えていた。初マラソンだった設楽との差は、10キロ付近で自分のペースに切り替える冷静さも併せ持っていた点だ。
長崎出身で社会人2年目の24歳。165センチと小柄だが「仁義を貫く大きな人間になってほしい」という両親の願い通り、熱いハートの持ち主に育った。主将を務めた山梨学院大では、監督から「気持ちを入れ込みすぎて力まないように」とよく注意された。実業団では珍しい「マラソン部」のMHPSに入社。黒木監督にも「練習で頑張り過ぎないように抑えるのが大変だった」と苦笑いされるが、2時間12分台だった昨年の初マラソンの経験を生かした。
実家の机には、今も長崎・鎮西学院高入学の時に書いた夢が貼ってある。「(マラソンで)世界レベルの選手になる」
初の世界選手権代表(最大3枠)入りは恐らく間違いない。ただ、出場だけでは世界レベルとは言えないと思う。「正直なところ、うれしさ半分。トップは2時間3分台」。挑む壁の高さを改めて知り、奮い立っていた。(増田創至)