グループホーム恒例の夏祭り、母にスプーンでカレーライスを食べさせた
■認知症の母を見つめて:4(マンスリーコラム)
前頭側頭型認知症の母がグループホームに入居して、5年が経った。前頭側頭型は、アルツハイマー型と違い進行を遅らせる薬がない。症状は少しずつ悪化し、くしの歯が欠けるように「できないこと」が増えていった。
ホームで取り戻した穏やかな笑顔 冬の夜、母は外へ
消しゴム食べ、一人で高速道路へ 母は「私が悪いんだ」
トイレとポットにお百度参りする母 「やめたくても…」
手書きの文字が下手になった。複雑な会話ができなくなった。歩き方がぎこちなくなった。
面会にいくと、会った瞬間は笑顔になるが、元気がなかった。昼間でもベッドに横たわり、じっと目をつぶっていることが増えた。家族が話している目の前で、横になってしまったり、黙って立ち去ってしまったり。
トイレに間に合わず粗相をすることも増えた。何とか回避していた紙おむつをつけるようになった。親が日に日に衰えていく様子を見るのは悲しかった。
如実に衰えたのは、咀嚼(そしゃく)し、嚥下(えんげ)する力だ。食事をよくかんで味わい、ゆっくりのみ込むことが難しくなった。だいぶ痩せた母がじっと横たわる姿は、「いつかこんな風に寝たきりになる日が来るのか」と覚悟を迫るようだった。
■居住棟を移ったその日に
前回書いた、冬の夜の「ホーム脱出事件」後も、母は何度か自室から外に抜け出して介護職員を困らせた。私たち家族が交代でホームに泊まりに行ったこともある。隣で一緒に寝ると母は落ち着くのだが、毎日泊まりに行くわけにもいかない。
ホームで暮らすのはもう限界か……。とはいえ、また家族の誰かが家に引き取って介護するのも無理だ。葛藤している折、母と最も親しい年配女性の介護職員に言われた。
「隣の居住棟に移られますか? 隣の棟は他の入居者がお元気なので、お母さまにはいいかもしれません」
2011年の大みそか、母本人の同意を得て、居住棟を移ることにした。
移ったその日に、また事件が起…