署名を呼びかける大森重美さん(左)とJR宝塚線脱線事故の遺族ら=3月11日、大阪市北区、千種辰弥撮影
JR宝塚線(福知山線)で107人が死亡、562人が負傷した脱線事故から25日で12年。遺族らは記憶の風化にさらされながらも、事故で死者を出した企業など法人に刑事罰を科す法律をつくることを目指し活動を続けている。8日には他の事故の遺族らとも連携して東京でシンポジウムを開く。
「組織罰で真相究明と再発防止を目指しましょう」。脱線事故で長女(当時23)を亡くした大森重美さん(68)=神戸市北区=は3月中旬、JR大阪駅前で署名を呼びかけた。集まったのは1時間で10人分ほど。ほかの遺族と昨年4月に「組織罰を実現する会」を立ち上げ、これまで集めた署名は約2500人分。思うより反応が薄いと大森さんは感じる。「しんどいが、やるしかない」
事故では、JR西日本の歴代社長4人が業務上過失致死傷罪に問われ、1人は無罪が確定。残る3人は一、二審で無罪になり、最高裁に上告されている。
会が求めるのは個人にしか問えない業務上過失致死罪を、法人にも問えるようにする法律の創設。有罪の場合に高額の罰金を科せるようにし、組織の安全管理の意識を高めることを目指す。
ただ、国では議論が進んでいない。導入すれば、組織防衛のために関係者が証言や資料提出を拒み、原因調査が難しくなるとの懸念の声がある。それでも、元裁判官で会の顧問を務める安原浩弁護士(73)=兵庫県弁護士会=はその必要性を訴える。1991年にJR西と信楽高原鉄道の列車が衝突し、42人が死亡した事故の刑事裁判で裁判長を務めた。「法人の体質に警告を与えないと重大事故を防げない」と話す。
会の副代表の松本邦夫さん(66)=兵庫県芦屋市=は2012年の中央自動車道笹子トンネル天井板崩落事故で長女(当時28)を亡くした。山梨県警が業務上過失致死傷の疑いで捜査しているが、脱線事故と同じような「壁」にぶつかると考え、会に加わった。今回、東京・日比谷コンベンションホールで開くシンポでは、12年の関越道高速ツアーバス事故と、昨年の長野県軽井沢町のスキーバス事故の遺族らにも参加を呼びかけ、共に思いを語る。松本さんは言う。「遺族にとって風化なんてありえない。組織罰が実現するまで訴え続ける」
シンポの問い合わせは事務局(0798・68・3161)。(千種辰弥)