札幌高裁が入る庁舎=札幌市中央区
札幌高裁が昨年、刑事裁判の控訴審で判決を言い渡した被告166人のうち、初公判で判決が出される即日判決が151人と約91%にのぼった。全国のほか7高裁は1割を切っており、割合の高さに関係者からは戸惑いの声も上がっている。
今年1月、殺人などの罪に問われた男の控訴審初公判。男は「殺す動機がない」などとして無罪を主張したが、裁判は10分ほどで結審。裁判長は「被告側が指摘する事実誤認はない」として控訴を棄却した。
判決後、男の弁護人は「慎重な審理をしようという気が感じられない。刑事裁判は、被告人に自分の責任を納得させる手続きでもあるはず」と話した。
即日判決の割合は、2007年から10年まで0~1%だった。だがその後に増え続け、14年から毎年9割を超えている。一方、東京高裁では昨年1年間で即日判決したのは、1890人のうち71人(約4%)。大阪、名古屋、福岡、仙台、広島、高松の6高裁も1割を切っており、2回目の公判期日で判決を言い渡すケースがほとんどだ。
札幌高裁総務課の広報担当者は「裁判官が個別事件の審理状況に応じて適切に判断していると考えている」と説明している。
地元の弁護士からは疑問視する声も上がる。昨年7月にあった札幌高裁、札幌高検との協議で、北海道弁護士連合会(道弁連)が「慎重に審理されていないのではないかとの疑いを招きかねない」として判決期日を別に設けるよう要請した。
道弁連によると、高裁側は要請に対し、現状について「全国的にみて一般的な運用ではないのは認識している」と発言。「判決を出せる状態なのに、先延ばしにする合理的な理由が見いだしがたい」と説明したという。
一方、最高裁の司法統計によると、15年にあった札幌高裁からの上告事件は46件で、控訴審で判決が出た156件の約29%にあたる。ほかの7高裁は約34~48%。札幌高裁は少ない傾向にある。
北海道大学法科大学院の上田信太郎教授(刑事訴訟法)は「上告のケースが少ないのは、控訴審の判断に納得しているからだと捉えられる。即日判決をことさら問題視する必要はないのでは」と指摘する。
その上で「札幌高裁だけ多いのは奇異に感じる。裁判の迅速化と被告人の納得感の両者のバランスをどうとるのかが問題だと思う」と話した。(布田一樹)