ひなたぼっこをしてくつろぐシロテテナガザルのナポ(左)とモカ=3月22日、東京都台東区の上野動物園、小宮山亮磨撮影
進み続ける高齢化、その一方で深刻な少子化――。そんな傾向が、全国各地で続いている。そんなの知っている? いえ、これは人間ではなく、動物園のお話です。
特集:どうぶつ新聞
上野動物園(東京都台東区)。天寿を全うし、旅立つ動物たちが相次いでいる。
2014年11月にはホッキョクグマ「ユキオ」が26歳でこの世を去った。国内最高齢だった。16年2月にはメスのインドライオン「チャンディ」が逝った。19歳、老衰だった。
園では現在、メスのニシゴリラ「ピーコ」が推定47歳。国内2番目のご長寿だ。シロテテナガザルのカップル、「ナポ」と「モカ」はいずれも推定41歳で、野生での平均寿命はとうに超えている。みな、今も客の前に出る現役だが、寄る年波には勝てない。
ピーコは寒くなると節々が痛そうなそぶりを見せる。体を冷やさないよう、飼育員は冷蔵庫から出した野菜を常温に戻してから食べさせている。ナポとモカも、毛並みにツヤがなくなってきた。
よその園も事情は同じだ。
多摩動物公園(東京都日野市)ではメスのボルネオオランウータン「ジプシー」が推定62歳、世界最高齢だ。よこはま動物園ズーラシア(横浜市旭区)にいるメスのセスジキノボリカンガルー「ワリ」は推定27歳で、これも世界最高齢。井の頭自然文化園(東京都武蔵野市、三鷹市)では昨年5月、アジアゾウの「はな子」が国内最高齢の69歳で死んだ。
高齢化の背景には、獣医学や栄養学の進歩がある。手厚く世話されれば、野生よりずっと長生きする。一方で、赤ちゃんはなかなか生まれない。つがいをつくっても気が合うとは限らず、飼育施設にも限りがあるので代わりのパートナー候補も多くはない。繁殖力の強い個体がうまく見つかっても、きょうだいがあまり多くなると将来は近親交配の恐れが出てくる。
外部から若い個体を連れてくるのも難しい。上野動物園の渡部浩文副園長は「動物の売り買いが自由にできたのは、1970年代まで」と話す。輸出入を規制するワシントン条約の対象種は増え続け、口蹄疫(こうていえき)などへの警戒で検疫も厳しくなってきた。
さらに価格の高騰も立ちはだかる。
静岡県河津町の動物園「iZoo」園長で、著書「動物の値段」でも知られる動物商の白輪剛史さんによると、20年前に約400万円で買えたホッキョクグマは、今や6千万円。1千万円台前半だったアフリカゾウも、3500万円になった。中国やベトナム、ミャンマーなどで需要が高まっているためだ。「野生動物を生で見た人が少ない新興国では、動物園に行列ができる」という。
予算の少ない民間の動物園では、事情はさらに深刻だ。宇都宮動物園では11年から、「サポーター」を募り始めた。今は宇都宮市内のラーメン店など12軒から月々1万円ずつを集め、猛獣の餌代に充てている。
恩恵にあずかる1匹が、18歳のおじいちゃんライオン「リオン」だ。鶏ガラだけだった餌に時折、消化しやすい鶏胸肉などが与えられるようになり、便秘が改善したという。少しでも長生きをと、荒井賢治園長らスタッフは願っている。(小宮山亮磨)