攻撃的な卓球が特徴の平野。ニッタク製のボールとの相性も良い
卓球の世界選手権が29日、ドイツ・デュッセルドルフで開幕する。17歳のアジア女王・平野美宇(エリートアカデミー)が、日本女子で48年ぶりのシングルスのメダルを狙う。快挙達成に追い風になりそうなのが「メイド・イン・ジャパン」の公式球だ。
■世界が驚いた「ハリケーン・ヒラノ」
面白いように、平野が強打の連打で相手を両サイドに大きく揺さぶる。4月のアジア選手権。準々決勝で昨夏のリオデジャネイロ五輪を制した丁寧(中)を破ると、準決勝、決勝も世界ランク2位と5位の中国勢を倒し、日本女子で21年ぶりにアジアを制した。
「速さがあった。相手もびっくりしていた」と平野。体幹と下半身を鍛え、球の上がりばなをたたく打点の早い連打で畳みかける攻撃的な卓球を磨いてきた成果が出た。国際卓球連盟(ITTF)も、驚きを込め「ハリケーン・ヒラノ」と紹介した。
平野の快挙を映像で見た男子のエース・水谷隼(木下グループ)は、自身のツイッターにこう投稿した。「ボールが違うだけでこんだけ波乱が起こるんだもん」。アジア大会の公式球は、ワールドツアーやリオ五輪で使われた中国製ではなく、国内大手の日本卓球(ニッタク)製のボールが選ばれた。平野自身も「(ボールの違いは)大きかった。いい卓球が出来た」と語る。
■戦術にはまるメイド・イン・ジャパン
なぜ、ボールの違いが勝敗に影響するのか。2014年、ITTFは素材をセルロイドから燃えにくいプラスチックに変更。プラスチック球はメーカーによって素材や製法が異なり、跳ね方や回転量の違いに差が出た。16年までの全日本選手権ではジャンケンの勝者がメーカーを決めていたほどだ。今年の全日本は海外製の統一球になったが、国内大会でなじみが薄い球で選手は順応にてこずった。
ニッタク製は、数ある公認球の中で唯一の日本製だ。プラスチックの肉厚がほぼ均一だから、同じ高さからボールを落として弾ませると、他社製よりもバウンドが均一でぶれにくい。半円球どうしをつなぎ合わせる製法だが、つなぎ目が他社製に比べて小さく、技術力の高さが分かる。
リオ五輪代表の石川佳純(全農)は「均一に跳ねるから、打球点の早い卓球がやりやすい」と解説する。台の近くで強打を連打する平野の戦術は打球点の予測がより重要だが、規則的に跳ねるニッタク製は戦術に合っているといえる。世界選手権の使用球も、主催者のITTFがニッタク製を選んだ。石川も、打球点の早い卓球にモデルチェンジを図ろうとしている。
■「猛練習の中国勢」を警戒
一方、ニッタク製のボールはリオ五輪などで使われた中国製より素材が硬く、カット主戦型や癖のある球を打つ選手にとっては「スピン(回転)がかかりにくい」と感じるようだ。
中国勢も強烈なスピンが持ち味なだけに、アジア選手権ではニッタク製に慣れず、球威が落ちた。だが平野は「中国勢は世界選手権までにボールの対策をしてくる」と警戒。関係者によると、中国はニッタク製のボールを何百ダースと取り寄せ、猛練習しているという。
平野も中国選手をビデオで確認しながら、日々練習する。「自分が成長したら、中国選手に連続して勝てると思う。本当に、中国選手を完全に超えたい」