ボブスレーと陸上短距離の二刀流に挑む君嶋愛梨沙
「二刀流」で夏冬両五輪出場を目指す女子選手がいる。ボブスレー日本代表の君嶋愛梨沙(きみしまありさ、21)。日体大陸上部に所属するスプリンターは昨季からボブスレーを始め、わずか4カ月で世界選手権女子2人乗りで7位となった。来年の平昌(ピョンチャン)五輪でも世界を驚かせるかも知れない。
「正直、二刀流は大変。この春はボブスレーが終わったら長い休みもなく陸上に戻った」。君嶋は今月もボブスレーの代表合宿に参加し、陸上では25日開幕の関東学生対校選手権に出場する。
山口県岩国市育ち。米国人の父と日本人の母を持ち、中学から陸上一筋だった。中学2年のとき、全国大会200メートルで当時の日本新記録を出して優勝し、将来を期待された。だが、埼玉栄高で左足甲をけがしてからは伸び悩んだ。
ボブスレーを勧められたのは昨夏、日体大での選手発掘テストだった。陸上の記録が戻りつつあった矢先で、心は揺れた。そりを後ろから押すブレーカーに選ばれたが、何度も断った。
この競技の女子選手は世界でも少ない。そこに目をつけた日本連盟は平昌五輪に向け、女子の強化に特化。昨季は本場ドイツからヘッドコーチを招き、他競技からの転向者を探した。
君嶋は167センチと長身で、30メートル走は3秒46と日本ではずば抜けている。大石博暁ボブスレー強化部長は「パワーとスプリント力を兼ね備えた日本の女子選手はこれまでいなかった」と期待をかける。君嶋も「自分の力が求められる場所は多くない」と、陸上に軸足を置きながらも前向きになれた。
昨年11月、そりの乗り方を体中をあざだらけにしながら覚え、1カ月後にはワールドカップ下部大会で優勝。押切麻李亜(まりあ、ぷらう所属)と組んだ2月の世界選手権では日本勢過去最高の7位となった。平昌五輪の日本代表は来年1月以降に決まる。君嶋は「そりの性能、ランナー(刃)、スタートダッシュがうまくかみ合えば、五輪でも結果を残せる」と意気込む。
冬の間はそりを押し続け、陸上に向けた練習はできなかった。だが、「スタート時の加速は爆発的に良くなった」と陸上への手応えも口にする。陸上100メートルの自己最高は中学時代の11秒90。それが昨秋には追い風参考ながら11秒88を出した。今季は、二刀流の相乗効果がどれだけ出るかも楽しみにしている。(笠井正基)