2014年に発売された当初の「アネロ」の口金リュック=大阪市中央区のキャロットカンパニー本社
最近、まちなかで、キャンパスで、子どもの声でにぎわう公園で、「anello(アネロ)」のロゴ入りリュックを背負った女性をよく見かける。海外でも人気で、タイには専門店も続々とできている。流行の発信源は、実は大阪だ。
近ごろよく見る「あのリュック」 アジアで大人気、実は日本生まれ
5月中旬、大阪市中央区のビルにある「キャロットカンパニー」の本社に、百貨店や服飾関係のバイヤーが押し寄せた。同社が展開するオリジナルブランドの一つ、アネロの秋冬シーズンの新作発表会だった。
「色のバリエーションが豊か」「男性も持ちやすいデザインで、夫婦で貸し借りができる」。バイヤーは口々にその魅力を語る。
定番商品はガバッとがま口が開く口金リュック。「口金」シリーズとしてボストンバッグなども展開しているが、圧倒的にリュックが人気だ。キャロットカンパニー東京支店MD戦略室の新(しん)富美子課長は、好評の理由を「開口部が大きく、出し入れや中身の確認も楽。それが一番」と話す。
会社は吉田剛社長(50)が卸売業として1988年に立ち上げた。だが、メーカーはなかなか商品を卸してくれない。「自社で作るしかない」と、手探りでポーチやバッグを作り始めた。
「アネロ」ブランドは2005年に誕生。同年12月に3千円以下のリュックを発売した。通学バッグとして流行し、社員も増えたが、そこから伸び悩んだ。
生産工場は全て中国にあり、円安の時期は価格維持のためポケットやファスナーを減らした。「それで本当に良いのか」「モノに満足してもらわなければ」。社内で議論が飛び交った。そして「価格に合わせるのではなく、良いモノを見合った価格で提供する」という方針が定まった。
当時同社の別ブランドで人気だった口金ポーチをヒントに14年11月、口金リュックを4千円台で発売した。同じ価格帯のバッグは同社では年間1万個売れればヒット商品だったが、最初の1年で35万個売れた。
「若い母親から『マザーズバッグ』として広まったようです」と新さん。哺乳瓶、水筒、おむつに着替え……。「いっぱい入るけれど形が崩れない」「抱っこひもと一緒に使いやすい」と評判になった。
ユーザーの不満をインターネットからすくい上げ、サイズやファスナーの位置などの改良を重ねた。自転車通勤の会社員やワーキングマザーに向けて、昨シーズンの新作にはパソコンの収納スペースも作った。価格は4200~7900円に抑えている。
香港や台湾、シンガポール、インドネシアなどに輸出。タイでは31の専門店を展開し、近くフィリピンにも出店する。今年5月まで約2年半の口金リュックの販売個数は国内外で累計423万個に達し、欧州からの問い合わせも増えている。国内では直営店の開設を検討中だ。
アネロはイタリア語で「年輪」を意味する。吉田社長は「毎年少しずつでも必ず成長していこうという思いを重ねた。丁寧に、長く使ってもらえるものを作っていく」と話した。(山根久美子)