米ニューヨーク・タイムズの本社ビル=江渕崇撮影
米新聞大手ニューヨーク・タイムズ(NYT)は5月31日、記事をチェックしたり見出しを付けたりするデスクや編集者を対象に、早期退職を募ると明らかにした。一方で、現場の記者らは最大約100人増やす。読者の声に基づき同紙に注文を付けるパブリック・エディター職は廃止し、電子版のコメント欄を充実させる。紙媒体からデジタルへの移行をいっそう進める考えだ。
NYT編集幹部は従業員に宛てた手紙で、一本の記事に何人もの編集者が関わっている現状を「紙媒体だけの時代の名残で、動きが鈍く費用もかさむ」と指摘。早期退職で編集者を減らし、記事が出るまでの工程をスリム化するという。
その分、現場に近い取材記者を増やし、強みとしているトランプ米政権をめぐる調査報道や国際ニュースの発掘、デジタル発信に充てる。早期退職への応募が足りなければ、レイオフ(一時解雇)に移行するとしている。
パブリック・エディター職は、2003年に発覚した若手記者による記事の盗用・捏造(ねつぞう)事件を受けて設けられた。廃止の理由について、同紙発行人のアーサー・サルツバーガー・ジュニア氏は「社内の監視役として中心的な役割を果たしてきたが、今やソーシャルメディアやネット上の読者がより用心深く強力な監視役になった」と説明。読者がコメントを投稿できる記事は現状では1割ほどだが、今後は大半の記事に拡大するという。
NYTは電子版の有料契約数が今年3月までの1年間で65%も増え、191万件に達した。トランプ政権のスキャンダルを暴く報道などが新たな購読者を引きつけ、紙媒体の不振による広告収入の落ち込みを補っている。(ニューヨーク=江渕崇)