初防衛した佐藤天彦名人=6日午後9時15分、甲府市、堀英治撮影
第75期将棋名人戦七番勝負は、佐藤天彦(あまひこ)名人(29)の初防衛により第6局で幕を閉じた。連覇を目指す佐藤名人の積極性が光ったシリーズ。並行して行われたコンピューターとの対局という試練を乗り越え、将棋界最高峰の座を死守した。
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佐藤名人は昨年、羽生善治三冠(46)を破り、初タイトルとなる名人を奪取。同世代の稲葉陽(あきら)八段(28)を挑戦者に迎えた今回は、その原動力となった得意戦法を封印。研究量が問われる勝負ではなく、前例の少ない力勝負を挑む場面が目立った。
例えば第2局。後手番の佐藤名人は、玉の守りを固めないまま銀を前線に繰り出す積極策を採った。前例の展開が少なく激しい戦いになったが、快勝。第3局でも、結果的には敗れたものの同様の手法を披露して、新境地を印象づけた。
第3局の立会人を務めた深浦康市九段(45)は「新しい戦法を採り入れるには入念な準備が必要で、口で言うほど簡単ではない。名人の思い切りの良さが印象に残った」と言う。佐藤名人自身は、開幕前の取材に対し「防衛戦だからといって守りに入るのではなく、挑む気持ちで戦いたい」と語った。
この春、佐藤名人はもう一つの大きな勝負に向き合っていた。将棋ソフト「PONANZA(ポナンザ)」と戦う電王戦だ。結果は2連敗。現役のタイトル保持者がソフトに敗れるのは初めてだった。
佐藤名人は「(ソフト独特の指し手への)対策に多くの時間を割いた。名人として戦う重圧もあった」と語り、名人戦への影響を認めた。その一方、「違う価値観を垣間見ることが出来た。新しい将棋を作っていこうと思えたことが大きかった」。電王戦が決着した時点で名人戦は2勝2敗だったが、その後は2連勝。困難をプラスに変えて勝利につなげた。
今、将棋界は、羽生三冠と渡辺明竜王(33)が複数のタイトルを持つ一方、中学生棋士の藤井聡太四段(14)のように、佐藤名人より年下の世代も急速に力を伸ばしている。競争が激しくなる中、若き名人がその地歩を固めつつあることをアピールする七番勝負となった。(村瀬信也)