ブレイディみかこさん。「日本では貧困に陥っている人とすれ違っても気づかなさそうですよね」=東京都新宿区
英国の貧困地区にあった無料託児所には、政治に翻弄(ほんろう)される子どもや親たちの姿があった。そこで保育士として働いていた英国在住のライター、ブレイディみかこさん(51)が自らの体験をまとめ、出版した。本を通して「政治と生活の密接な関わりに気づいてほしい」というメッセージを伝えている。
ブレイディさんは大好きなパンクロックを追い求め、1996年に英国へ渡った。翻訳業などをしていたが、英国人と結婚して息子が生まれたのを機に「外国人保育士」の養成講座に応募。資格取得に必要な実務経験のため2008年から無料託児所とかかわり、その後、保育士として働いた。そこで見聞きしたことをまとめた著書が「子どもたちの階級闘争 ブロークン・ブリテンの無料託児所から」で、4月にみすず書房から出版された。
無料託児所は英国内で平均収入や失業率が最低水準の貧困地域にあり、生活保護家庭や移民の家庭の子ども、障害のある子どもが通っていた。周囲のホームレスや精神障害のある人が保育に参加することもあり、違う信条や背景を持つ人々が衝突しつつも「なんとなく共生」していたという。
そこへ10年の政権交代による福祉・医療予算の切り詰めが直撃する。ブレイディさんが4年ほど離れた間に、無料託児所への財政支援は打ち切られていた。昨年秋には閉鎖に追い込まれ、子どもの未来をつくる無料託児所は現在、その日を生きるための食料支援の拠点になった。かつて無料託児所を駆け回っていた子どもは、生活保護の給付を止められてやせ細り、「チョコレート! ソーセージ!」と食べ物の名前を連呼していた……。著書には、こうした状況の変化が、ブレイディさんの視点で描かれている。
「政治の変化はいつも一番貧しいところに如実に現れる、ということをどんなニュース記事よりも託児所が語っていた」とブレイディさん。英国に比べて階級や地域間の経済格差が表面化しにくい日本では、貧困が見えにくいのではないかと警鐘を鳴らす。
「どこに行ってもみんな均質で…