大手スーパーなどが売らなくなった食品が並ぶ店内。ロニ・カーン最高経営責任者(右)は食品ロスについての意識を高めたいという=シドニー、小暮哲夫撮影
オーストラリアのシドニーに「すべて無料」のスーパーができた。賞味期限切れ前でも処分されてしまう食品を、大手スーパーなどから譲り受けて提供する。まだ食べられるのに廃棄される「食品ロス」問題に対する意識を高めてもらい、生活に困っている人々の支援も狙う。
シドニー南部の「オズハーベストマーケット」。約200平方メートルの店内に果物や野菜、パンやコーンフレーク、ビスケットなどが並ぶ。値札はなく、レジもない。客は買い物かご一つまで品物を手にできる。
運営するのは、2004年以来、オーストラリア各地で支援が必要な人に計6500万食を提供してきた市民団体「オズハーベスト」。ロニ・カーン最高経営責任者が「これを見てください」と示したのは賞味期限まで4日あるヨーグルトだ。大手スーパーではもう売れず、引き取った。こんな食品ロスの問題について「理解を深めてほしい」と言う。客にはスタッフが個別に付いて、説明をしながら選んでもらう。小売業者などから譲り受けた食品を売るスーパーはデンマークにもあるが、「無料」なのは「世界初」という。
開店時間は平日の午前10時から午後2時まで。毎日150人ほどが来店し、約2千点の品物の大半はなくなる。客には寄付をお願いしている。4月の開店から5週間で2万豪ドル(約170万円)が集まった。寄付は食事提供事業の費用にあてられる。客のジェニー・モーガンさん(42)は野菜やビスケットを手に「十分食べられる。困った人の手助けもしたい」と話した。
無料でも運営できるのには理由がある。約10人のスタッフはボランティアで、家賃や光熱費は趣旨に賛同したビルのオーナーの厚意で無料。こんな条件が満たされれば、別の場所でも展開したいという。
食品ロスは豪州でも課題になっている。シドニーのあるニューサウスウェールズ州の09年の調査によると、平均的な世帯で年に1036豪ドル(約8万6千円)に相当する食品を捨てているという。(シドニー=小暮哲夫)