世界文化遺産登録が決定し、喜ぶ人たち=9日午後5時47分、福岡県宗像市の「海の道むなかた館」、小宮路勝撮影
八つの構成資産が密接に結びついてこその「沖ノ島」。真摯(しんし)な主張が世界を説得した。4資産のみ認めるとするイコモス(国際記念物遺跡会議)の事前評価から一転。現地の政府団に各国から祝福の拍手が送られ、吉報を待ち望んだ地元・宗像市や福津市の人々も歓喜に沸いた。
沖ノ島、世界遺産に 勧告を覆し、8資産の一括登録決定
世界遺産委員会の会場に、「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」(福岡県)の一括登録を告げる木槌(きづち)の音が鳴り響いた。地元関係者らが待ちに待った瞬間。議場内は拍手に包まれた。
9日午前10時(日本時間午後5時)過ぎに審議が始まると、委員国からは全8資産まとめての登録を支持する発言が相次いだ。大きな異論はなく、約1時間足らずで決定。佐藤地(くに)ユネスコ大使や宮田亮平文化庁長官が、関係各国への謝意と人類共通の財産を守っていく決意を述べた。会場中ほどに陣取った日本政府代表団の席には各国から祝福の握手が相次ぎ、日本側は満面の笑みで応じた。
谷井博美・宗像市長は「長いようで短かった。どう保護し管理していくか、きちんとしたルールをつくらないと。それは今日から始まった」。古墳群がある福津市の原崎智仁市長も「すべての力の結集を感じた。古墳群は田園と一体化したすばらしい風景だ。その歴史と文化を見てもらいたい」と感激した様子だった。
道のりは平坦(へいたん)でなかった。5月、ユネスコの諮問機関イコモスは、沖ノ島本体(三つの岩礁を含む)の価値は認めるが、それ以外の社殿や古墳群は除外する条件付きの勧告を出した。
宗像大社は沖ノ島、大島、本土の3社でひとつ。それぞれに3姉妹の女神をまつる。それらは一体で切り離せないとする日本側はパリのユネスコ代表部などを通じ、委員国に対してぎりぎりまで一括登録を説き続けた。それだけに関係者の感慨もひとしお。
宗像大社の葦津敬之宮司は「正直、ホッとした。勧告が出たときは、日本文化は理解しづらいのかとも思ったが、スピリチュアルやアニミズム、エコロジーといったキーワードを探し、整理した。ありがとうの一言に尽きます」と喜びをかみしめた。(クラクフ=編集委員・中村俊介)
■パブリックビューイングに400人
「完全復活、やったー」。福岡県宗像市の海の道むなかた館で9日夕にあったパブリックビューイングには、市民ら約400人が参加。全8資産の復活が伝わると「バンザイ」の声が会場中にこだました。
「8資産は不可分」「一括登録を支持する」。ネット中継された世界遺産委員会では、沖ノ島以外の4資産は除外としたイコモスによる勧告とは逆に、委員国が次々に全資産登録支持を打ち出した。そのたびに、会場には「おーっ」という歓声と拍手が起こった。
むなかた館の地域学芸員で登録運動を支えてきた平松秋子さん(71)は「沖ノ島の考古学的価値と信仰という文化が結びついた結果」と喜んだ。女人禁制の島だが、審議では、地元で女性が積極的に活動してきたと紹介された。「それがとってもうれしい」
福津市で新原(しんばる)・奴山(ぬやま)古墳群などのボランティアガイドを務める「福津いさば会」の有吉敏高会長(68)は「ほっとした」。福津市には古墳群も紹介する「カメリアステージ」が8日にオープンしたばかり。「子どもたちに胸を張って伝えることができる」
井手葵さん(14)は、沖ノ島にまつわる歴史を伝えるミュージカル「むなかた三女神記」に出演、世界遺産に関する国際会議の参加者にも披露してきた。「登録をきっかけに宗像のいいところを知ってもらいたい。これからも心を込めて演じたい」と笑顔をみせた。(馬郡昭彦)
■「自然と共生する神道の教えを」
「神の島 沖ノ島」の共著がある福岡県出身の作家、安部龍太郎さんの話 おめでとうございます。関係者の方々の熱意とご努力のたまものだと、感謝と敬意を表します。宗像大社の標語は「時満ちて 道ひらく」ですが、まさに道が大きく開けました。これが世界の人々に、自然と共生する神道の教えを知っていただくきっかけとなることを願っています。