砂原俊彦助教。後ろは蚊を模した手作りのランタン=長崎大
まとわりつく不快な羽音、血を吸って、赤黒く膨れたおなか……。今年も蚊の季節がやってきた。身近な場所に田んぼやクリーク(水路)などがある佐賀は、「蚊が多い」として「ブン蚊都市」と揶揄(やゆ)されることも。本当に、そうなのか。
「都市ごとに蚊の量を比べた論文を見たことはないが、佐賀は経験的に多いです」と話すのは、長崎大学熱帯医学研究所の砂原俊彦助教(51)。
佐賀大学にいた1994年ごろから10年間、ボウフラを採るスポイトを手に蚊の種類と場所との関係などを調査し、現在も蚊の研究を続ける。2年前から夏に「蚊学教室」として一般向けの講座も開催。夏休みの自由研究に取り組む子どもたちにも人気という。
砂原さんによると、蚊は種類によって卵を産む水面の大きさが違う。
佐賀はまず、茶色で数キロ飛べるコガタアカイエカなどが発生する田んぼと、市街地が近い。白黒まだらのヒトスジシマカなど、小さい水たまりを好む種の住みかとなる墓や竹やぶ、側溝のマスにも事欠かない。
街中に張り巡らされたクリークも、流れがなければ発生源だ。「様々な種類の蚊が好む環境がモザイク状に配置されている。蚊にとっては天国のような環境」
佐賀市もあだ名を放置しているわけではない。市環境政策課によると、蚊対策は遅くとも1973年には始まっていた。当初は成虫を駆除していたが、今はボウフラ駆除が中心だ。
停滞した水路などで発生するアカイエカを減らすため、4~9月の蚊シーズンは市内約1500カ所を調査。ボウフラがいれば、脱皮を邪魔する薬をまく。最近は下水道の普及で生活排水が溝にたまることが少なくなり、一時期より数は減ったという。
一方、住宅地に多く、ジカ熱を媒介するヒトスジシマカは行動範囲が数十メートルほどと狭いため、身近な水たまりをなくすことが重要。市は植木鉢の受け皿の掃除を呼びかけたり、地域から申し込みがあれば「防蚊対策アドバイザー」を派遣して助言したりしている。
そもそも、蚊とは――。砂原さんによると、ハエ目カ科に属する虫で、2枚の羽と長いくちばし(口吻〈こうふん〉)が特徴。空中で集まり蚊柱を作るユスリカはユスリカ科という別の科に分類される。
カ科はほとんどの種類のメスが、産卵のためにヒトを含むセキツイ動物の血を吸い、たんぱく質を得る。カエルや、トビハゼなど魚の血を吸う種類もいるという。「となると恐竜の血も吸えそうですが、映画『ジュラシック・パーク』に出てくる形の蚊は血を吸わないオオカという種。しかも、あれはオスです」
刺されないようにするにはどうしたらいいのか。夜行性のアカイエカなどは、網戸をしっかり閉め、蚊取り線香などを使えばある程度避けることができる。出先にいることが多い昼間に飛んで来て血を吸うヒトスジシマカの対策は難しい。長袖を着るなどの防衛策があるが、発生を減らすのが一番だという。
最近の研究では、蚊に刺されやすい人と刺されにくい人の差は遺伝子で決まっていると明らかになった。皮膚から出る揮発成分、「におい」に寄ってきているらしい。引き寄せる成分は複数あるといい、リストアップが進んでいる。近い将来、新しい対策が生まれるかもしれない。(杉浦奈実)