その瞬間まで、確かにそこにあった街、暮らし、命。当時の人々の営みを丹念に描いた映画「この世界の片隅に」がロングランを続けている。主役のすずが見つめた風景から、失われたものに思いをはせる。原爆投下から、きょうで72年――。
【写真特集】「この世界の片隅に」舞台を巡る
特集:核といのちを考える
■主演・のんさん「普通の暮らしがキラキラ」
「この世界の片隅に」は、日常を丁寧に描いた作品です。「戦争」が背景にある中で、すずさんたちは日々を過ごしていきます。ごはんを作って、おいしかったりまずかったり。失敗しても日常の楽しい一コマとして描いてあって、普遍的で今を生きる私たちにも共感できる、自分に引きつけて考えられるテーマだと思うんです。「普通に暮らす」ことが、すごくキラキラしていて。
映画がラストに向かう中で、広島に原爆が投下されるシーンがあります。その時はすずさんたちに起こったことを、映画を見ている人も自分に引きつけて感じているから、心に響いてくるんだと思います。
この映画を「知り合いに薦められて見た」という方がたくさんいました。監督や私たちと同じように、この作品をもっとほかの人にも見て欲しいという思いが、みんなに広がっていったのかな。
■旧中島本町で暮らした浜井徳三さん(83)「楽しいこと思い出す」
ここらの人はみんなうち(旧中島本町にあった理髪店)で髪切りよったみたいでね。「あんたの父さんによくバリカンで頭たたかれよった」ゆうて言われますよ。映画は10回ほどみましたが、みるたんびに楽しいことを思い出します。うちの店が映画に出とるけぇ、両親やきょうだいが出てきて、街がよみがえっとるんでね。私はアニメとは思っていないんです。世界中の人たちがみてくれて、本当にうれしい。
裏道に出たらザクロの木があったとか、裏の奥さんがべっぴんさんだったとか楽しいことばかり。やっぱり人間て勝手なもんで、原爆で両親、兄姉を亡くしたけど、苦しいことは過ぎたら終わりなんよね。
年取って思うのは、世界中からここ平和記念公園に人々が来られるのはありがたいけど、両親きょうだいの頭を踏みにじられるような気もね、するんです。ここには生活があったわけですからね。
■広島弁監修、6役演じた栩野幸…