スウェーデン南部ゴットランド島で、陸軍防空部隊が地対空ミサイルの模擬弾をバルト海に向けた可動式発射台に設置する訓練を行っていた=5月、渡辺志帆撮影
軍事非同盟を貫いて19世紀から他国と戦火を交えずにきたスウェーデンが、ロシアの脅威の高まりを受けて、軍備強化へと方針を一変させた。島部に常駐軍を再配置し、7年前に廃止した徴兵制を復活させる。北大西洋条約機構(NATO)の加盟申請も現実味を帯び始めた。(ゴットランド島=渡辺志帆)
バルト海に浮かぶスウェーデン領ゴットランド島。夏ともなると大勢の観光客が訪れるリゾート地だ。
だが、人口6万人足らずののどかな島は、国土防衛の要衝でもある。
5月中旬、紺碧(こんぺき)のバルト海を見下ろす島西部の高台で、陸軍防空部隊所属の兵士が地対空ミサイルの模擬弾を可動式発射台に載せる演習を行っていた。
島の南東約300キロのバルト海対岸には、ロシアの飛び地カリーニングラードがある。近年、ここに核搭載可能な短距離弾道ミサイル「イスカンデル」などが配備されたとされる。
ロシアによるウクライナ南部クリミア半島併合などを受けて、スウェーデン政府は2015年、16~20年の5年間の軍事費をそれまでの5年間に比べて170億クローナ(約2310億円)増やし、総額2240億クローナ(約3兆480億円)とする方針を発表した。ゴットランド島への常駐軍の再配置は目玉施策の一つだ。
島は100年以上前から軍の演習地として使われ、冷戦期は数百人規模が駐屯した。だが04年に駐屯部隊は引き揚げた。7月の正規軍の配置を前に、国内各地の中隊が昨年9月から回り持ちで島周辺の防衛を担った。新たに約8億クローナ(約110億円)かけて基地を再建する。
同島で軍を統括するマティアス・アーディン陸軍大佐は「バルト地域は戦争突入のリスクは低いが、不安定になっている。軍の再配備でバルト海沿岸の空と海を統制できる」と述べた。
影響は島民にも広がる。政府は今年に入り、島内に約350カ所ある冷戦期の民間シェルターの点検を指示した。
シェルターは集合住宅や学校など島の至る所にあり、目印に30センチ四方のパネルが掲げられている。80年代に建てられた教会の地下シェルターを見せてもらった。体重をかけてハンドルを回すと、厚さ10センチ以上の扉がきしみながら動いた。広さは50平方メートルほど。フィルターを備えた換気ダクトがあり、ミサイル攻撃などの際に人々が逃げ込めるようになっているという。
信者の女性(71)は、「私たちは西側、ロシアは『あちら側』。ロシアは危険だと島育ちの私たちは子どもの頃から十分認識し、備えてきたのです」と話した。