握手する大阪府の草野球チーム「チューブライダース」(写真左)と徳島県阿南市の「ミラクル」の選手たち=阿南市のJAアグリあなんスタジアム
10年前のひとりの職員の発案をきっかけに「野球のまち」を掲げ、まちおこしに挑んできた徳島県阿南市。その取り組みは市民に根付き、草野球チームの選手ら年間1万人が訪れるようになった。人気の秘密は市民のおもてなし精神だ。
■球場プロ仕様・アナウンスも
天然芝の外野、バックスクリーンの電光掲示板。「ピッチャー土方(ひじかた)君。背番号30――」
プロ野球公式戦にも使える「JAアグリあなんスタジアム」でアナウンスを聞きながら、大阪府河南町の土方啓嗣さん(46)はマウンドをならした。
土方さんの軟式野球チーム「チューブライダース」は5月、阿南市の旅行業者「牟岐通(むぎつう)観光」の野球観光ツアーで訪れ、2試合を戦った。試合には敗れたが、土方さんは「こんなに本格的な試合が楽しめるなんて。来年も来たいですね」と晴れやかだった。
市によると、野球に関わる2015年度の宿泊客は3252人。10年前の約10倍に増えた。日帰り客も倍の6721人に上った。野球ツアーや合宿、大会などで来訪者が増えたといい、宿泊や飲食などの直接的な経済効果は年約1億2千万円。人気の高まりに、牟岐通観光の山川勝弘・阿南店長は「阿南市には、これといった観光資源が少なく、数年前まで考えられなかった」と驚く。
その秘密は、市民も加わったおもてなしだ。
野球観光ツアーは1泊2食、空港までの送迎付きで一人1万3千円。スタジアムの使用料などは市が全額負担で、ツアー客との対戦用に結成された「おもてなしチーム」(約30人)や市内の草野球チームと試合ができる。試合の審判や記録員、場内アナウンス員は、市が養成した約30人の市民ボランティアが務める。参加者に後日、市から公式スコアと記念写真が贈られ、試合後、地元住民らが阿波踊りを披露する交流会も用意されている。
球場のスタンドでは、地元の女性約60人でつくるチアリーディングチーム「ABO60」(あなん・ベースボール・おばちゃん・60歳以上)が応援。赤いユニホーム姿でポンポンを振り、切れのあるダンスで試合を盛り上げる。メンバーで介護ヘルパーの森安江さん(63)は「球場に行くと元気をもらえる。野球のまち阿南を盛り上げたい」と言う。
市民の協力的な雰囲気について…