試合に敗れ、応援席へあいさつに向かう坂井の選手たち=阪神甲子園球場、林敏行撮影
(13日、高校野球 明豊7―6坂井)
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創部3年。それでも、先輩から引き継いだ野球がある。13日の第4試合で明豊(大分)と対戦した坂井(福井)は2014年、選抜大会出場経験のある春江工などが再編統合して生まれた。試合は6―7で敗れたが、伝統のつなぐ野球を見せた。
4―4で迎えた八回、無死一塁の場面。打席の出店朋樹君(3年)はバントの構えを見せる。「一塁手と投手の間に転がす」。勢いを殺した球は、相手投手のグラブの先を転がっていく。オールセーフ。「練習通り」
一、二塁となって、続く吉川大翔君(3年)も犠打をきっちり決める。その後、敵失に乗じて2点を奪い、この試合初めてのリードを奪った。川村忠義監督(43)は「転がして点を取るうちらしい野球ができた」。
坂井は、生徒数の減少などの影響で、春江工や坂井農など県立4高校を再編統合して開校した。統合前の13年春には春江工が選抜大会に出場。今の3年生は、その時の活躍に憧れ、後継校の坂井に入学した人が多い。
主将の吉田温郎君(3年)らが入学時の15年は、まだ春江工の3年生が残っていた。1、2年生だけの坂井と3年生だけの春江工は、春江工の監督だった川村さんの下、一緒のグラウンドで練習をした。
だが、その夏の福井大会では、両校が初戦で対戦することに。6月の組み合わせ抽選後は、練習場所を分けた。吉田君は「坂井の方が打力があり、勝てると思った」が、春江工が坂井を4―1で破る。安打数は坂井7本、春江工6本だが、春江工は犠打などで好機を広げていった。坂井の選手たちは敗戦後、「つなぐ野球を徹底しよう」と話し合った。それからは、バントや逆方向をねらう打撃などを意識した。
今夏の福井大会のチーム打率は2割9分だが、全5試合で犠打18、四死球22を記録。接戦を勝ち抜いた。
この日も、回の最初に出た走者は、犠打などで必ず次の塁に進んだ。
八回に相手の本塁打で逆転を許してしまうが、アルプス席から観戦した春江工最後の野球部員、大川拓也さん(20)は「安打や犠打で点を重ねる自分たちと同じ野球をしてくれた。あの夏の対戦で、それを伝えられてたならうれしい」。試合後、主将の吉田君は「つなぎは甲子園でも通用した。後輩たちには坂井の野球を継いでもらい、甲子園に戻ってきてもらいたい」と話した。(南有紀)