前橋育英の深川理来君=加藤諒撮影
(19日、高校野球 花咲徳栄10―4前橋育英)
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■前橋育英・深川理来
夢だった甲子園のグラウンドに「あいつ」と立つことができた。
形、色。見た目の全てがタイプ。自分好みにオーダーした約6万円の高級グラブだ。今まで使っていたものより2万円ほど高い。超がつく「グラブ好き」だ。新チームが始動した頃、「心機一転」と親にねだって買ってもらった。
最初は頑固者だった。革が厚くてしっかりしている分、ボールをつかみにくい。ノックを受けてもはじいてしまった。堅実な守備が持ち味なので、何とか自分のものにしたくて、毎日部室で磨いた。塗り込む油にもこだわった。内側はしっとりとして捕球時の「グリップ感」を高めるもの、外側はこだわりの赤い革につやが出るものと使い分けた。
自分は昨秋の大会でベンチに入れず、今春の選抜大会は記録員。でも、毎日手をかけた。「今日はミスしちゃった。今度はしっかり捕るから」。心の中で話しかけた。汚すのが嫌で絶対に地面には置かなかった。そんな思いが通じたのか。春ごろから手になじんで、「あいつ」が球を捕ってくれているような感覚になった。得意でなかった打撃の調子も上がった。5月の関東大会でベンチ入りできた。
ほっとくと、すねることも。夏の群馬大会直前、試合のことで頭がいっぱいになり1週間ほど、磨くのを忘れた。すると、なぜか守備練習で球をぽろり。気付けば革の色も薄くはげた。慌てて手入れをしてやった。
甲子園では頼りになった。終盤、三塁の守備固めに入るのが自分の役割。初戦も2回戦も、緊張した代わりっぱなに打球が飛んできた。初戦はライナー。気づくと球がすっぽり。2回戦はゴロ。バックネット裏の観客と球が同化して1歩目が遅れた。左手を伸ばすと球のほうから入ってきた。
今日は八回から三塁に。打球は来なかったけど、初めて打席に立てた。「あいつ」のおかげだ。本格的な野球はこれが最後。感謝の気持ちを込め、部屋にスペースを作ろうと思う。お疲れさま。ありがとう。(有田憲一)