朝日新聞デジタルのフォーラムアンケート アンケートには、特に映像広告について、外国の例を引きながら日本のジェンダー表現の現状を嘆く意見が多く寄せられています。一方で、行きすぎた配慮やバランス感覚は、表現の自由を狭めるのでは、という意見もあります。そうした声の一部を紹介するとともに、広告の国際的な潮流に詳しい専門家に話を聞きました。 【アンケート】ジェンダー表現の未来 ■「若く細い女性」偏る日本 海外を引き合いに、日本の現状について書かれた意見の一部です。 ●「性的な特徴を誇張した表面上の描写もそうだが、『がんばれ働くママ』というような、役割を特定の性別に固定するような表現も気になる。炎上するCMが作られてしまう過程には、偏った性別ばかりで会議が行われている様がうかがわれる。こうした偏った性別での企画会議の構成にも偏っているという意識と想像力がない企業なのだとがっかりするし、考え方が時代とともに変化しているということに対応できていないこと、世界の情勢からずれていることに気づけないでいることには危機感を持つべきだと思う」(東京都・40代女性) ●「イギリスで1年半すごし、昨秋帰国して気づいたことなのですが、メディアの持つ女性への、特に身体への評価軸が、『若くて細くてかわいい』ことに偏っています。また、女性であれば、『若くて細くてかわいい』状態であるべきだと言わんばかりの価値観の表出(ばらまき、とでもいいましょうか)に(一般紙の)新聞広告を含む新聞媒体も関わっていると思います。一概には言えないかもしれませんが、この価値観は男性目線中心であるだけでなく、それを自覚的にしろ無自覚にしろ支持する女性の態度も含めて、根強いものがあるように思えます。年齢相応の身体のあらゆる老化現象を肯定的に捉える女性の生き方をメディアでも発信なさいませんか?」(兵庫県・50代その他) ●「年々、諸外国との落差が激しくなっているように感じる。欧米に限らず、アジア諸国でも固定的なジェンダー観を再生産しないような(むしろ打ち破るような)素晴らしいCMや映像が出回っている。日本だけ、なぜこんなに旧態依然としたメディア表象が出回っているのか、理解に苦しむ」(東京都・30代女性) ●「海外と比較すると日本は誰か(組織など)に属することが前提にあり、それが表現となって表れていることが気になります。主人、旦那、○○の夫・妻、○○会社の○○、○○のママなど。また女性の社会的地位を表現するものもあるのが、気になります。専業主婦など。戦後の高度成長期を支えるために、こうした考え方や現象があったことは事実ですが国際社会は次のステージへ移行しているのに、日本だけがまだ戦後直後のような社会を前提とした考え方で、表現も変わらないのはかなり危機感を覚えます。ぜひメディアの発信から変革を促してください」(海外・40代女性) ■批判は表現の自由狭める? アンケートの、表現の自由に触れた意見の一部です。 ●「メディアやそれを利用する企業が主体的にジェンダーについて考えて『私たちはこのような社会を目指しています』と理想を掲げ、その方針に基づいて行動しなければいけない場面に来ているのだと思う。場当たり的に『これは男女あるいはその他の性へ配慮が足りない』と修正を繰り返すばかりでは、読者の目には言論の自由が縮んでいくようにしか映らないのではないか」(京都府・20代男性) ●「性差別的な表現を批判すると、『表現の自由を侵害するのか』といった反応が返ってくることがある。こうした反応は、おそらく次のことを理解していない。第一に、特定の表現が批判されるのは、すでに存在する性差別を再生産するからだということ。第二に、表現の自由は性差別を再生産する自由まで意味しないこと。第一の点は性差別の歴史について、第二の点は自由の限界について勉強しなければ理解することはできない。特定の表現について賛否両論があると述べるだけでなく、なぜある種の表現が差別となるのか、歴史と理論をふまえ根本から解説することもメディアの役割ではないだろうか」(東京都・40代女性) ●「いわゆる炎上を恐れて、当たり障りのない表現やデザインをすることで、面白みのない世界にすることはやめてほしい。誰もが不快感を持つことなく、様々な意見や主張を発信できる術を見いだしていってほしい」(静岡県・30代女性) ●「表現が即差別につながるというわけではないのに、一部の過剰反応が騒ぎを大きくし、表現の幅を狭めていると思う」(栃木県・10代男性) ●「メディアと一言で言ってもタイプやジャンルなど様々ありますよね。そのメディアの表現の持つ本意なども変わってくると思います。そのメディアがどのように成り立っているのか、そのメディアがなぜ存在しているのか、そのメディアを消費している人たちはどういう人たちなのか、そういったことを理解しようとせず全て一緒くたにしてジェンダー表現に配慮を強制するならば、表現の自由を狭めると結論付けても間違いではないように思います。配慮された表現も、人によってはそうでないと受け取れかねない表現も、共存できる社会を望みます」(兵庫県・20代男性) ■「課題解決探る広告」の時代へ カンヌの祭典を長期取材 河尻亨一さんに聞く フランスで毎年6月に開かれる広告の祭典「カンヌライオンズ」を2007年から取材してきた河尻亨一(こういち)さんに、ジェンダー表現をめぐる国際的な動きについて聞きました。 ◇ カンヌではこの10年ほど、格差や人種問題など、社会課題解決を目指す「ソーシャルグッド」な取り組みが、高く評価されるようになっています。中でもこの2、3年は、ジェンダーの問題にしっかり向き合う流れができています。 性別に対する偏見をなくし、女性の権利向上や活躍を後押しするキャンペーンを評価する「グラスライオン」部門が15年に新設されました。13年には2割だった審査員の女性比率も、今年は4割を超えました。 今年のカンヌで最も注目されたテーマも、ジェンダーでした。 例えば、3月8日の国際女性デーにロシアで公開され、カンヌでも高く評価されたナイキのCM「What are girls made of?」。劇場で「私たち女の子は何からできているの? 花? 指輪? うわさ話?」とロシアの童謡を少女がかわいらしく歌います。ところが、目の前に次々現れる女性アスリートの力強い姿を見て、「女の子は鉄の意志や自分を高めようとする努力、戦いからできている」と歌詞を変えるという内容です。広告祭の期間中に開かれた数多くのセミナーでも、ジェンダーについて考える内容が目立ちました。 なぜいま、ソーシャルグッド、広告の「社会的責任」が重視されるのか。グローバル企業に求められるのは、多様な価値観をもつ何億もの人とのコミュニケーションです。商品そのものでは差別化が難しくなる中、ソーシャルグッドを本気で追求しないとブランドの存在意義を喪失しかねない。ジェンダー問題への取り組みもその一つで、生き残りをかけた動きでもあります。 日本の広告表現、特に女性を男性視点からの性的対象物として描き、「炎上」したようなCMは、こうした国際的な潮流からは、はるか遠いところにいます。広告には、時代や共同体の無意識がリアルに反映される。その国がどんな状態なのかが見えてきます。女性差別的な表現を「これくらいはいいだろう」と許容する国は、内向き志向の「オッサン社会」なのかもしれません。 一方、こうした「炎上」事例を批判的に取り上げるメディアに対して常日頃感じるのは、「ではどんな表現が良いのか」が示されないこと。国際的にも評価の高いものは、話題になりづらいですが日本にもあります。 今年のカンヌの「グラスライオン」部門で、日本の広告が初めて受賞しました。 「THE FAMILY WAY」 精子の状態をスマートフォンでチェックできるアプリ「Seem」の広告です。 不妊に悩むカップルで、男性は受診をためらいがちです。そうした課題を解決したいという目的がまずあり、その仕組みを広めるためのドキュメント動画が作られた。モバイル部門ではグランプリを受賞しました。 地味でも「良いもの」をピックアップし、評価することで、受け手の感度やリテラシーを高めていく。それもジャーナリズムの役割であり、責任だと思います。(聞き手・三島あずさ) ◇ 〈河尻亨一〉 74年生まれ。雑誌「広告批評」を経て、「銀河ライター」主宰。東北芸術工科大学客員教授。 ◇ |
CM、ジェンダー表現に偏り? 表現の自由と兼ね合いは
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