メディアが「男女の役割分担を固定的に発信している」とすれば、その背景は何だと思いますか?
「最近の番組、広告や記事に共感できるものはありますか?」の問いに「ある」という人が4割近く。どんな表現をみなさんは「いい」と感じているのでしょうか。アンケートの声の一部と、朝日新聞に対して寄せられた注文や疑問の一部を紹介します。また、取材班にただ1人、加わった男性記者が、日頃の取材を振り返りました。
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■フラットな描き方 共感
この表現はいい、こうなればいい、という意見の一部です。
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●「某家電メーカーの冷蔵庫のCMで、共働きの家族が出てくる。妻が帰りが遅くなったり、夫が子どもたちに急いで夕食を作ったり、こんな風になれば女性のしんどさが軽減されるなあというシーン。しかし、現実は家事や育児をする男性が必要以上にほめられたり、ひどい時には、その妻が家事をしないから夫がするしかないと、妻の批判になったりすることもある。社会の風潮を自分が変えるのは難しいが、1人の生き方や考え方として、わが子や自分の出会う人に、伝えたり姿を見せたりすることならできると思っている」(大阪府・40代女性)
●「クラフトボスの堺雅人が出演しているCMは、現代の働きかたを反映させたものであると感じた。自分自身就活を経験し、CMでのひとりひとりのあり方が最先端であり男女の隔たりがないフラットなものとして描かれていると思った」(東京都・20代女性)
●「私は心と身体の不一致に違和感を持つトランスジェンダーだ。異性のパートナーもいる。昨年の『逃げるは恥だが役に立つ』は、ジェンダー論を家事分担を切り口にうまく扱っていた。同性愛のキャラクターも、自然な立ち位置で描かれていた。メディアのジェンダーの表現が、徐々に多様性に富んできたのだろう。若年層を中心に、同性愛に対する受け手側の理解も深まっている。今はLGBTを扱う場合、同性愛に偏っているように感じる。『T』の部分はまだまだこれからだ。私と同じ特性を持った当事者への理解が進むことを期待している」(北海道・30代男性)
●「最近とは言えないかもだが、ドラマ『重版出来!』でゲイの同僚をまわりが自然に受け入れてる感じとか、ドラマ『カルテット』での『夫さん』呼びなどがとても良かった。もちろん『逃げ恥』は共感しまくった。それに比べてバラエティーは、旧態依然で嫌な気持ちになる番組が多過ぎる。同じテレビ局が流してるのが不可解なくらい良いドラマとのギャップが大きい。あと、男性タレントが自分の妻を『嫁』と言うのが非常に不愉快。性的少数者を揶揄(やゆ)するような物言いもいまだに多い。50代の私でも、昔は普通に見てたものが不快に感じるくらい意識が変化してるのに、時代遅れ過ぎると思う」(兵庫県・50代女性)
●「『女性だけ、新しい種へ。』という広告、あれはなかなか傑作だった。ある意味『男性のファッションの多様化』はジェンダー問題の最後のとりで。性的な表現で女性ばかりに負担をかけているのも、今の男性に『華』が無さすぎるからではないだろうか。さてもう片方の種(男)は、果たしてこの広告の挑発に答えられるのだろうか。それとも、代わり映えしない身なりで指をくわえたまま、どこにも行かないのだろうか。彼女たちのファッションは、もう男性を意識しない。ならば男性たちだって、女性に頼らず『職場の花』をこしらえてみようと思わないか?」(長野県・30代男性)
●「かつて、カッコよさとは『男らしさ』と同義語であったと思います。でも今は、そのカッコよさの定義は全く変わってきています。メディア(あるいは表現者)の役割は、これまでとは違ったカッコよさを見いだし、表現できるかによるのだと思います」(東京都・50代男性)
●「人気の男性俳優さんが出演している、洗剤のCMがある。設定はいわゆる主夫で、ママ友の会話にも参加している。帰宅後家事を済ませた後、真っ白な洗濯ものと爽やかな表情。恐らく日中働きに出ている母親の姿こそ出ないが、それも含めていい。母親は家事育児をするもの、父親は働きに出て夜しかいない、といった従来の考え方に固執しない表現が良かった。男性俳優さんの、頑張りながらも心から家事を楽しんでいる表情がすてきに映った」(兵庫県・20代女性)
■「女性○○」書く必要ある?
朝日新聞に対して寄せられた意見の一部です。
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●「7月8日付朝日新聞の法廷での異議に関する記事で、『女性検察官』と表現されていたのが引っかかりました。男性であれば男性検察官とは書かないと思います。普通は検察官は男性で、例外だから表記するという意識が裏にあるのでしょうか。性別が意味を持たない文脈で、ことさらに男性、女性と書く必要はないのでは」(大阪府・40代女性)
●「女性のアイドルグループの存在、メディアでの取り上げ方は、若い、と言うより幼い女性性の商品化が感じられて、すごく嫌です。彼女らをプロデュースしている者たちが、芸能界やメディアで力を持っているからかどうかはわかりませんが、朝日新聞でも時々リポーターなどとして登場します。若い世代の代表とするなら、あまりにも安易です」(大阪府・60代女性)
●「ジェンダーやLGBTなど多様性に関わる問題に意識を向けようとする朝日新聞の姿勢には共感を持つことが多く、記事もよく拝読しています。だからこそ、朝日新聞デジタルを訪れるたびに不思議で仕方がないことがあります。&Men、&Womenというページの存在です。M、Wの二分法に疑問を呈する記事を読んだあと、スクロールすると出てくるこれらのページ。第3の性の選択肢もなく、関心を持つべき対象をM、Wの二分法で、しかも発信者によって決められているように感じます」(東京都・30代その他)
●「CMには、料理関係のCMで(多少の例外はあるものの)、料理するのは母親というイメージを再生産しているなど、問題が多い。朝日新聞でも、&W、&Mとページを分けていること、そこで扱っている内容にジェンダーバイアスが強いことに、大いに不満を感じている。こうやって、一つ一つ指摘し、努力していくことでしか、差別や偏見、刷り込みは解決していかないと思うので、めげずに頑張りたい」(兵庫県・30代女性)
●「たくさんあるメディアの中では、一番まともだと思っている朝日紙を日常的に目を通して広告の中で感じたことを二つ申し上げる。まず、大手出版社が発行する四つの週刊誌の広告はヒドい。いずれも左側の方にエロ記事の見出しがあるが、男性でも不快感を持つような文言が恥ずかしげもなく満載である。不思議なのは、これについて女性たちが怒ったり抗議したとの報道を見たことがない。もう一つは、若いペアが登場する広告で、女が男にもたれ掛かったりしてこびているような写真が載っている。女性の自立が盛んに言われる中、一体どうなっているんだいと皮肉を言いたくなる」(千葉県・80代男性)
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このほかにも、多岐にわたるご意見、疑問、ご批判が届きました。寄せられた声は、よりよい新聞作りを模索する参考にさせていただきます。今回の議論への参加、ありがとうございました。
■子育て 気づけば母親ばかり取材
今回、このテーマに取り組もうと手を挙げた記者10人の中に、男性もいました。その記者が、ふだんの取材について書きます。
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1年半ほど、子どもに関することを主に取材しています。過去に書いた記事を、ジェンダーの視点で改めて振り返ってみました。いま読むと、自分でも違和感を覚えるものがありました。
誤飲や転落など、子どもの事故をどう防ぐかをテーマにした昨年の記事です。家族3組の、ヒヤリとした経験を紹介しましたが、登場したのは全てお母さんでした。読者に、育児は女性という固定観念に引きずられて書いていると思われても仕方がありません。
その時の取材を思い起こしても、特に意図があったわけではないというところに、気をつけなければいけない点があると思います。
取材した当時から、性別に関係無く育児をすることは当然だと思っていました。それなのに、母親に話を聞いていました。家族への取材の目的はヒヤリとした経験を聞くことでした。もしかしたら、父親からもっと詳しい内容を聞けたかもしれません。女性だけが登場する子育ての記事が積み重なれば、記者の意図とは関係なく、旧態依然のステレオタイプを拡散してしまうことにもなるでしょう。
様々な事情によって、1人きりで育児をしている「ワンオペ」状態は依然として大きな課題です。今回のシリーズで「現実に沿ってメディアが描けば、それが当たり前の姿だとして結果的に性役割を固定・強化してしまう」という専門家の指摘がありました。問題を改善するために真正面から指摘する記事を書くだけでなく、子どもが登場する何げない一場面の記事であっても、こうした指摘を意識することが重要だと感じます。(滝沢卓)
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社会課題の解決を探る海外の広告の動き、「ニュース」を問い直すテレビの試み、そして朝日新聞への注文。潮目が変わるところに今、自分がいると実感しました。性別を問わないフラットな方向に世の中の関心が進もうとしているのに、メディアがその現実を覆っていることはないだろうか。改めてそう思います。ここでの議論を踏まえ、9月9日にはセミナーを開きます。現実に寄り添い、できれば時代の少し先を行くような表現や切り口、価値判断を日々、模索していきます。(錦光山雅子)
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