Wの悲喜劇の鎮目博道プロデューサー
女性差別や、性別による役割分担を固定化するような表現について、多くの批判がアンケートに寄せられました。一方で、「女尊男卑」の言葉も。なぜ、男性への差別的表現がさほど問題にならないのか考えました。また、女性の関心事を掘り下げる新たな試みで評判になっている「ニュース番組」のプロデューサーに話を聞きました。
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アンケートには女性以外の描かれ方についての疑問も寄せられています。
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●「これまでのあまりに無意識の女性差別やステレオタイプ化を気にするようにした内容を誤解しているのか、今度は逆に男性差別や蔑視のような、質的に全く同じことを繰り返すことになっていると思える。気にするべき、配慮が必要な点の全くの勘違いがあると思う。肝心なのは、個人の考えやふるまい、状態や、立場や所属というものを、本来無関係であるはずの性別にからめて表現したり、それに基づく日本語の用法や定型句(例えば、女性作家のような)が存在することのおかしさを、皆が知り合う、話し合える機会を作ることではないか」(東京都・50代男性)
●「一般に女性は男性よりもジェンダーを気にし過ぎるように思う。このためか被害者意識が強い気がする。男性の方が不利になるような表現の場合でも男性はそれほど騒がないが、これが逆に女性の場合だと差別であると騒ぎ立てる傾向があるのではないでしょうか? 女性も男性もそれぞれ有利な点、不利な点がありトータルして見れば結構公平なようにも思える」(福島県・60代男性)
●「ジェンダー表現で着目される対象が女性に偏っていると思われる。かつて女性が差別されていた影響だとしても、ジェンダー問題である以上、同様に男性にも着目し、表現するべきだ」(茨城県・20代女性)
●「消臭剤の男性の臭いをオーバーに表現したCMは女性がみても不愉快に感じる」(山梨県・70代女性)
●「夫の仕事の出来なさについて描かれたドラマや、消臭剤のCMで男性が女性に取り囲まれ臭いなどと批判を受けている場面は女尊男卑のように思える。これらが女性・男性反対に描かれていたらどうだろう。また、女性の問題は男性の問題でもあると思う。長時間労働で夫が家に早く帰れないために、女性が家事をせざるを得ない状況になってしまう社会の状況が男性は仕事、女性は家事という固定観念を作りあげていると思う。女性の問題だけ取り上げて男性の問題を取り上げないのはおかしいと感じる」(東京都・10代女性)
●「たとえば洗濯用洗剤のCM。若い男性に、『ベテラン主婦』とおぼしき2人があれこれ言っている、というもの。ちょっと違和感を覚えました。若い男性には洗濯の知識がないという前提なのでしょうか。さりとて、人間には生物学的には二つの性しかないわけで…正しいことを追い求め過ぎると、本質から離れていってしまう気がします。作る方も見る方も、ある程度の柔軟さが必要なのでは?」(東京都・30代女性)
●「性的少数者、特に同性愛者の表現について言いたいことがあります。昔に比べると同性愛者に対する表現もいくらか和らいでいますけど、まだ不満があります。まずステレオタイプの人が多すぎる。同性愛者は女っぽい男性の同性愛者、男っぽい女性の同性愛者だけではなくしゃべり方もしぐさも普通の同性愛者がいっぱいいます。メディアは分かりやすい人たちばかりクローズアップしがちです。見た目やしぐさが普通の同性愛者もクローズアップして欲しいと思います。あともう一つ言いたいことはメディアは極端な男尊女卑または女尊男卑に走りがちです。特に男は臭いという洗剤や消臭剤のCMは問題にならないことがおかしいと思う」(愛知県・30代男性)
■男性を取り巻く社会構造に目を
「女性に対する表現だけに反応するのが、ジェンダーの議論ではない。男性を蔑(さげす)んだ表現に全く反応がないのはバランスを欠いている」といった指摘も、アンケートに寄せられました。
田中俊之・大正大准教授(男性学)は「同意見です」と言います。なぜでしょう。「女性を性的対象に見たり、ステレオタイプに描いたりする表現にSNSなどで異議申し立てが相次いだ結果、女性に関する表現への認知度は上がりました。一方で、男性の差別的な描き方への意識はまだ女性ほど高まっていない」と指摘します。
「『安い電気に替えるか、稼ぎのいい夫に替えるか』と妻が言うCMもありましたが、そういう表現が問題だと言っても多くの人はまだぴんとこないのではないでしょうか。それを『鈍感』と批判するより、男性を取り巻く社会構造、根底にある『男は稼いでナンボ』という意識に目を向けて欲しい」
アンケートで、ジェンダー表現の「女尊男卑」を指摘する声もありました。田中さんは「こうした声の背景には、女性の権利が拡大し、男性の権利が狭まるととらえる意識があるのでしょう。男女の対立軸に落とし込むのでなく、ジェンダーの問題は男女を含めた様々な性に関わるととらえてほしい」と言います。(錦光山雅子)
■女性だけの問題ではない SNSで話題「Wの悲喜劇」プロデューサー
女性の問題を正面から取り上げる「ニュース番組」がSNSなどで話題になっています。インターネットテレビ局Abema(アベマ)TVの「Wの悲喜劇~日本一過激なオンナのニュース~」(土曜午後11時)。セクハラや発達障害の子の育児、性教育など、そのテーマの当事者らと司会のSHELLY(シェリー)さんが本音で語りあいます。鎮目博道(しずめひろみち)プロデューサー(48)に聞きました。
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長くテレビ朝日のニュース制作の現場で働いてきましたが、この国の女性たちは窮屈そうに生きているなあ、と思っていました。社会的に不利な立場にいる、最大のマイノリティー集団とも言えます。困っていることは多いはずなのに、そうした関心事をニュースとして正面から扱う分野が、すっぽり抜け落ちていた。そこを掘り下げれば、社会的なインパクトは大きい。ムーブメントにつながるかもしれない。ある意味チャンスだ、と思ったんです。
テレビ番組で不特定多数が求めるものを追求した結果、悪意はないけど、描いたものが結果的に人を縛ることもある。男女や家庭にまつわる、そうしたステレオタイプを打ち崩したいという思いもありました。友達の経験談を聞く雰囲気で、ジェンダーにまつわる問題も身近な話として伝えて議論できたら、と。
シリーズ化しているテーマ「性教育」には大きな反響が来ています。学校でまともに性のことを教えないので、AV(アダルトビデオ)が教科書代わりになっている。結果、性の関係で女性が男性に従属的になり、嫌なことを嫌と言えないままパートナーとの関係自体も従属的になってしまう女性がいる。男女の関係が対等であることの大切さを、自分もこの企画から教わりました。
6月に「ポリアモリー」(合意のもとに複数の人と交際すること)を取り上げました。複数恋愛が目を引きますが、本質的なテーマは、結婚制度という「常識」や男女の関係の問い直しでした。共感や反発から議論が盛り上がるのもいいと考えています。
出演者は女性だけ。女性の収入の方がパートナーより多い「大黒柱女子」を取り上げた回では「そもそも柱が一本(片働き)じゃなくて、ともに働けばより安全なのに」という意見から「男性も実は苦しい」となった。女性の関心事から入る番組ですが、多くのテーマが男性の問題にもつながっています。「男子は見なくて結構」と打ち出していますが、実際は結構、見てくれているようですよ。(聞き手・湊彬子)
■来月9日にセミナー開催
フォーラム面の議論を受け、セミナー「ジェンダーとメディア」を開きます。現状を検証しながら、多様性のある社会を映し出す表現を考えます。エッセイストの小島慶子さんの基調講演に続き、現場からの取り組みの報告、海外の状況の紹介、さらに、高田聡子さん(マッキャンエリクソンクリエイティブディレクター)、宮﨑真佐子さん(TBSプロデューサー)、駒崎弘樹さん(フローレンス代表理事)、大門小百合さん(ジャパンタイムズ執行役員)によるパネルディスカッション「ステレオタイプを超えて」があります。
◇日時:9月9日(土)正午~午後4時半
◇会場:日本記者クラブ10階ホール(東京都千代田区内幸町2の2の1)
◇参加費 5千円(税込み)
◇参加申し込みは「ジェンダーとメディアセミナー」(
https://ciy.asahi.com/ciy/10000232
)へ。
◇定員 先着100人(託児あり)
◆主催:朝日新聞ジャーナリスト学校(03・5541・8629)
メール
outreach@asahi.com
◆協力:公益社団法人日本記者クラブ
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