釜ケ崎地区を歩く弁護士の遠藤比呂通さん=大阪市西成区、安冨良弘撮影
■憲法研究者・弁護士 遠藤比呂通さん
特集:憲法を考える
「個人としての尊重」。憲法研究者として、日雇い労働者たちの弁護士として、その現実を考え続けている遠藤比呂通さん。将来を嘱望された学者の道を捨て、大阪市西成区の釜ケ崎の現場で活動を始めて20年。一度はキリスト教の宣教師をめざしたほどの信仰も活動に通底する。その目に憲法はどう映っているのか。
――釜ケ崎から憲法はどう見えますか。
「ほかに行くところのない人を受け入れる『逃れの街』が釜ケ崎です。住民票を持たない人もたくさんいます。住民票がないと、どこの住民でもありません。失業手当といった行政サービスを受けられず、投票もできません。憲法改正の国民投票もできないのです。そんな主権者がいていいのでしょうか。憲法を決めるのは国民です。改憲が議論されていますが、ちょっと待ってください。最終的に決める国民投票に参加できない人がいるんです。ここに、私のいだく憲法問題の核があります」
――「住民票がない」?
「日雇い労働に必要な白手帳(雇用保険日雇労働被保険者手帳)の発行を受けるには住民票が必要で、多くの労働者が地区内のビルに住民登録していました。その慣行が問題になり、大阪市は2007年に2千人余りの住民票を本人たちの同意なしに削除しました。大阪市に住みながら大阪市民ではないとされたのです。白手帳があれば、仕事にあぶれたとき失業手当がもらえます。当時、白手帳を持つ人は2万人以上いましたが、1千人ほどになりました」
「市は今もドヤ(簡易宿泊所)を調査して、居住実態がない労働者の住民票を毎年何人も消しています。選挙権や国民投票権のない国民が1人いても問題なのに、恒常的、構造的に生み出されていて誰も責任を負わない。ここに釜ケ崎の憲法問題があります。まさに『日本に憲法があるんか』です」